「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(15) 文・黒古一夫(文芸評論家)

新世紀を迎えて……、しかし

「戦争の世紀」といわれた20世紀が終わり、世界中の誰もが来るべき世紀が「平和と安寧」に彩られることを願っていた。しかし、2001年9月11日、オサマ・ビンラディンをリーダーとするテロ組織「アルカイダ」のテロリストによる「アメリカ同時多発テロ」(通称「9.11」)事件が起きる。ハイジャックされた4機の航空機のうち、2機がアメリカの「富」を象徴する世界貿易センタービルへ、1機が世界の安全保障を制御していると言われてきたアメリカ国防総省本庁舎(ペンタゴン)へ、残りの1機は乗客たちの抵抗にあってペンシルベニア州ピッツバーグ郊外に墜落した。

この「9.11」によって2900人余りが犠牲となり、6000人以上が負傷した。前代未聞のテロは、表向きは宗教戦争・民族解放戦争を装いながら、イスラム原理主義者によるテロ(暴力)が、中東やアフガニスタンといった地域に限定されるものではなく、世界中のどこでも行使される可能性があることを証明し、アメリカのみならず日本を含む世界中を震撼(しんかん)させることになった。

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