寄稿(連載)

栄福の時代を目指して(8) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

強者の支配こそ正義?

前回は、プラトンのソクラテス対話編を参考に、生成AI(チャット君)や夢中でのトラギアスと青年哲学徒・即礼君の対話形式で書いてみた。書きながら想起していたのは、30代はじめにおいてイギリス・ケンブリッジ大学研修中に聴講したプラトン講義である。同大学では、客員研究員は他学部の講義も自由に聴講できるので、自分の属した社会政治学部以外の講義も、それぞれの建物に通って毎日聴講していた。この大学には古典学部があり、有名なM・F・バーニェト(イギリスの古代ギリシア哲学研究者)らによるプラトン対話編に関する講義も聴いた。講義ではギリシャ語で原典を読んでいたが、場面ごとに説明を加え、生き生きとその様子を語っていて、その対話の場に自分も引き込まれるような臨在感があった。連載でも、そういった感覚を少しでも味わって頂きたいと思い、即礼君の物語に託して関連する箇所をなるべく示していきたい。歴史の面影の漂う雰囲気が多々この大学にはあり、書いてみたい気もするが、今は筆を急ごう。

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食から見た現代(16) 15分から勤務できるカフェレストラン 文・石井光太(作家)

愛知県春日井市に、テラスの付いたカフェレストランがある。ポテトを使った美味しい料理と、看板犬が人気の「ワンぽてぃと」だ。

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カズキが教えてくれたこと ~共に生きる、友と育つ~ (5) 写真・マンガ・文 平田江津子

数々の出会いが導いた市民団体の設立

カズキが地域の小学校で特別支援学級に在籍していた時、普通学級で多くの時間を過ごさせてほしいと相談し続けました。でも、学校側は「別室での個別学習の方が彼の力を伸ばせる」と主張を曲げず、私たち夫婦は悶々(もんもん)とした日々を過ごしていました。

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栄福の時代を目指して(7) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

「解放の日」の既視感

本連載第5回では、青年哲学徒S・即令君が、科学アカデミーや左翼政党の勉強会に赴いて、先生方と問答をしたという設定でエピソードを書いた。私自身はマルクス主義に詳しいわけではないし、その資本主義批判には今でも意味があると思っている。しかし、この問答は、私が青年時代に父と交わした多くの会話に源流がある。唯物論ないし史的唯物論の限界という認識には、父という1人の人間の実存(研究人生)がかかっていると言って良い。その肩の上に私の視座が成立してきたのである。

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食から見た現代(15) “安心・安全”な食の時間〈後編〉  文・石井光太(作家)

神奈川県相模原市にある児童養護施設「中心子どもの家」には、幼稚園児からおおむね18歳くらいまでの子が、45人暮らしている。

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カズキが教えてくれたこと ~共に生きる、友と育つ~ (4) 写真・マンガ・文 平田江津子

つらかった経験を糧として

知的障害児通園施設を嫌がり、地域の幼稚園生活を楽しんだカズキ。“いっしょ”に過ごすことで彼との付き合い方を身につけていった同級生の子どもたち。幼稚園で驚きの光景を目の当たりにした私たち夫婦は、どんな子でも、自分たちの住む地域の学校に行くのが“当たり前”になっていくことこそが、差別や偏見を生まない、誰もが安心で生きやすい社会をつくることにつながると確信し、カズキの就学先として地元の小学校を希望しました。

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栄福の時代を目指して(6) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

驚愕の世界史的事件

読者の皆様は、映画『スター・ウォーズ』をご覧になったことがあるだろうか。宇宙の銀河共和国を守るジェダイ評議会を中心に共和国の盛衰や再興を描く物語だ。この中の『エピソード3/シスの復讐』における忘れがたい衝撃的なワンシーンとして、共和国のパルパティーン最高議長が実は、悪の中心である暗黒卿ダース・シディアスだったことがわかる映像がある。議長を徐々に信じてきた若きアナキン・スカイウォーカーは、それを知って初めは倒そうとしたものの、心理的誘惑にかかって操られてしまい、議長を逮捕しようとしたジェダイのNo.2(メイス・ウィンドウ)を殺してしまう。この結果、スカイウォーカーは暗黒面に落ちて暗黒卿ダース・ベイダーとなり、他の多くのジェダイも倒されて共和国は崩壊し、暗黒卿が操る銀河帝国へと変化してしまうのである。

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食から見た現代(14) “安心・安全”な食の時間〈前編〉 文・石井光太(作家)

神奈川県相模原市の閑静な住宅街にある児童養護施設「中心子どもの家」(https://kodomo.chusinkai.net/)に、調理スタッフたちが出勤するのは早朝の5時過ぎだ。寝静まっている暗い廊下を通って奥の調理室へ行き、前日に仕込んでおいた食材を手分けして調理していく。

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カズキが教えてくれたこと ~共に生きる、友と育つ~(3) 写真・マンガ・文 平田江津子

“運命の分かれ道”となった出会い

カズキは、3歳から知的障害児通園施設に通い始めました。就学先の小学校については、医師や専門家、施設スタッフの全員から「特別支援学校がふさわしい」と言われていたので、彼にとってそれがいちばん良い道だと思っていました。

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栄福の時代を目指して(5) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

栄福学・序説の起点――科学主義の陥穽

「栄福学・序説」を、前回述べた議論を起点として進めてみよう。今の世界では、超越的実在を否定するか括弧(かっこ)に入れて物質世界だけを探求する学問(学問類型B:形而下限定学=けいじかげんていがく)がほとんどだ。この世界に慣れた研究者たちには、このような学問のあり方を自明視するあまり、あたかも不可視の世界は存在しないように考える習慣が身に付いてしまっている人が多い。この発想が教育や社会的通念において広がっているために、宗教や精神性は片隅に追いやられてしまった観がある。

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