寄稿(連載)

栄福の時代を目指して(4) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

新年の大計:栄福を実現するための包括的学問

皆様は新年を迎えてどのような抱負を持たれただろうか。私は喪中なので正月らしい祝い事は控えたが、この1年と言わず、10年以上にも及びそうな大計を立てた。その核心は、「栄福の時代に向けて」、人々の栄福を実現するための哲学と社会科学の包括的な学問を樹立する、というものだ。この哲学や学問体系を「栄福哲学」や「栄福学」と呼ぶことにしよう。

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食から見た現代(12) 夜のフードパントリー〈前編〉  文・石井光太(作家)

2024年8月の灼熱(しゃくねつ)の陽の下、埼玉県の東川口駅からほど近い築120年の古民家「もっこう館」には、20~30代の女性たちが続々と集まっていた。ある女性は幼い子どもの手をつなぎ、ある女性は溢(あふ)れる汗をハンカチで拭いながら建物の中に吸い込まれていく。

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カズキが教えてくれたこと ~共に生きる、友と育つ~(1) 写真・マンガ・文 平田江津子

自閉症の息子・カズキを授かって

息子・カズキは「自閉スペクトラム症、知的発達症」と医者から診断されています。その特徴を調べてみると、周囲とのコミュニケーション困難、言語発達の遅れ、興味の対象が限定的、強いこだわりを示す、変化が苦手などなど……たくさんの項目があります。「二つ当てはまれば自閉症の疑い」とありますが、カズキの場合は当てはまらないものが二つくらいしかない、というほどコテコテの“自閉君”です。

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栄福の時代を目指して(3) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

動乱の世界:アメリカを支配するポピュリズム

連載『栄福の時代を目指して』2回目では、日本政治に生まれた「栄福政治への夜明け」という可能性について述べた。3回目では、世界全体のビジョンについて述べよう。前者には希望を感じても、世界全体の動向には不安を感じている人が多いに違いないからである。二つの大学で授業において学生に質問の時間を設けたところ、案に相違して、当該の授業内容に関してよりも、今の内外の状況について私の考えを聞きたいという声が相次いだ。例えば、総選挙、兵庫県知事問題、ドナルド・トランプ大統領再選、日米関係、ウクライナ問題、中東問題、韓国の戒厳令布告、シリアの政変……というように。前回、日本政治には総選挙で民主主義回復という曙光(しょこう)が射(さ)したと述べたが、地球全体を見渡すと、混沌(こんとん)としており決して明るい図柄は浮かんでこない。この激動や混沌とした状況が、これまで政治に大きな関心を持たなかった若年層にも、政治的関心を高めたのだろう。

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栄福の時代を目指して(2) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

「栄福の時代」への日本政治

新連載の開始にあたって人文社会科学の全領域に射程を拡大したと述べたが、政治が人々の幸福に大きな影響を与えることは確かだ。そこで新連載の2回目には政治に焦点を当てようと思う。前の連載『利害を超えて現代と向き合う』ではこの主題に重点があり、時の政治の危機や問題点についての陰鬱(いんうつ)な内容が少なくなかった。でも新連載では、『栄福の時代を目指して』というタイトルにふさわしく、明るい調子(トーン)で書くことができる。急に行われた総選挙で政治状況に大激変が生じ、新しい時代が現れたからだ。

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食から見た現代(11) 付き添いベッドで食べるディナー〈後編〉  文・石井光太(作家)

銀座の歌舞伎座の近くにオフィスを構える認定NPO法人「キープ・ママ・スマイリング」。前回は、ここが行っている子どもの入院に付き添う親へ送る「付き添い生活応援パック」の取り組みを見てきたが、今回はもう一つの中心的なプロジェクトである「ミールdeスマイリング」について紹介したい。

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栄福の時代を目指して(1) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

学問的エッセー――学問と芸術の架橋という夢

『利害を超えて現代と向き合う』最終回に書いたように、8月の父逝去を契機に自分の人生の来し方行く末を省みたので、心機一転してタイトルを更新し、新しい内容も加えて執筆することになった。編集部が調べたところ、2017年3月以来、毎月連載してきた寄稿は90回に及んでおり、ちょうど良い区切りでもある。そこで今回は、〈総選挙が急に行われることになって政治についても書きたくはあるものの〉この新連載の内容について説明したい。
※総選挙に関しては、『利害を超えて現代と向き合う』の第8184回などを参照

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食から見た現代(10) 付き添いベッドで食べるディナー〈前編〉 文・石井光太(作家)

東京の歌舞伎座の周辺は、昔から銀座の観光地の一つとして知られたところだ。東銀座駅の改札口を出てすぐのスペースにはお土産店が所狭しと並んでおり、国内外の観光客で溢(あふ)れ返っている。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(90)最終回 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

四十九日と死後の審判

四十九日は故人を偲(しの)びつつ、その冥福を祈る期間である。宗教的発想ではたいてい、この世を超えた超越的世界があり、死者の魂は現世からその世界へと移行すると考えられている。日本の仏教や民間信仰では、この期間に死者たちは「中有(ちゅうう、中陰ともいう)」という状態にあり、冥土の旅をしていて、「十王」という10人の裁判官の審判を受けるとされている。“初七日”後の最初の裁判から始まって、七日ごとに七回裁判があり、14日目に三途(さんず)の川を渡る。その後、35日目には閻魔(えんま)大王の裁判があり、“四十九日”に最後の裁判が行われて、生前の行いに応じて極楽や地獄に行くとされている。いわゆる成仏のためのものだ。この成仏のために法要や供養、祈りに意味があるとされており、だからこそ、この期間は死者のための集中的な祈りの期間でもある。※第68回:葬儀における宗教的意味

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食から見た現代(9) 祖国の手の味(ソンマッ)  文・石井光太(作家)

千葉県の京成電鉄検見川駅から徒歩10分ほどの住宅街に、千葉朝鮮初中級学校がある。関東の朝鮮学校の中で、唯一給食を提供している学校だ。

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