「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年

「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(21)番外編5 文・黒古一夫(文芸評論家)

「ユートピア」を求めて(5)――「谷間の村」に楽園を!

1960年代から70年代初めにかけて学生運動が起こった。「政治の季節」と呼ばれたこの時代の経験が私たちに知らしめたものは、高度経済成長政策の「成功」の裏側に、さまざまな「闇」あるいは「負の部分」が存在するということであった。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(20) 番外編4 文・黒古一夫(文芸評論家)

「ユートピア」を求めて(4)――「反日本」の彼方へ

1960年代に本格化した高度経済成長は、日本を世界で有数の経済大国へと押し上げた。その原動力になったのは、自民党総裁選挙の候補者の一人だった田中角栄が1972年6月11日に発表した「日本列島改造論」(同年6月20日に日刊工業新聞社から単行本として刊行)であった。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(19) 番外編3 文・黒古一夫(文芸評論家)

「ユートピア」を求めて(3)――SF仕立てで「未来社会」を予想

日清戦争(1894・明治27年)に始まって、日露戦争(1904・明治37年)、第一次世界大戦(1914~18・大正3~7年)を経て、満州事変(1931・昭和6年)、日中戦争(1937・昭和12年)、太平洋戦争(1941~45・昭和16~20年)という、50年以上にわたる長い戦争の時代が1945(昭和20)年8月15日に終わる。これによって日本はかつて経験したことのない連合国(アメリカが中心)による「占領」下に置かれるのだが、戦争の苦しみを体験した人々は「平和」と「民主主義」の到来に胸を躍らせることになった。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(18) 番外編2 文・黒古一夫(文芸評論家)

「ユートピア」を求めて(2)

1986年4月26日に当時のソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリで起こった原発事故は、国際原子力事象評価尺度(INES)で最も深刻な事故に当たる「レベル7」と認定され、事故発生直後の死者数は「33名」であったといわれている。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(17) 番外編1 文・黒古一夫(文芸評論家)

「ユートピア」を求めて(1)

この連載の延長が決まった時、まず考えたのは、戦後73年を10年ごとに区切って「時代」の声を伝えるという趣旨からは外れるが、「戦後社会」という大きな枠組みで捉えた場合、私たちが生きてきたこの社会の現実を相対化する、あるいは問題点を浮き彫りにする作品のことであった。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(16) 文・黒古一夫(文芸評論家)

「歴史認識」にこだわる

前回の冒頭で紹介したように、21世紀は「9・11」のアメリカ同時多発テロで幕を開け、その後は、現在まで「テロと戦争」に彩られた18年と言ってもよい様相を呈している。今回は、そんな「激動の時代」のただ中で私がどう過ごし、どんなことを感じ、考えてきたか、その一端を述べることで「歴史認識」と文学の在り方について考えてみたいと思う。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(15) 文・黒古一夫(文芸評論家)

新世紀を迎えて……、しかし

「戦争の世紀」といわれた20世紀が終わり、世界中の誰もが来るべき世紀が「平和と安寧」に彩られることを願っていた。しかし、2001年9月11日、オサマ・ビンラディンをリーダーとするテロ組織「アルカイダ」のテロリストによる「アメリカ同時多発テロ」(通称「9.11」)事件が起きる。ハイジャックされた4機の航空機のうち、2機がアメリカの「富」を象徴する世界貿易センタービルへ、1機が世界の安全保障を制御していると言われてきたアメリカ国防総省本庁舎(ペンタゴン)へ、残りの1機は乗客たちの抵抗にあってペンシルベニア州ピッツバーグ郊外に墜落した。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(14) 文・黒古一夫(文芸評論家)

日本中を震撼させた「天災」と「人災」

バブル経済が弾けた後、それまで日本全体を覆っていた「金がすべて」といった価値観に対する見直しや反省が、社会の各界各層で行われるようになった。そんな中の1995年1月17日、死者6434人、行方不明者3人、重軽傷者4万3792人を出す「阪神・淡路大震災」が起こり、改めて「天災(自然災害)」の恐ろしさを私たちは思い知る。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(13) 文・黒古一夫(文芸評論家)

バブル経済崩壊後の荒涼とした風景の中で

1960年代半ばに、その「成功」が明らかになった我が国の高度経済成長政策は、70年代から80年代半ばにかけて、日本を世界有数の「経済大国」へと押し上げることになった。そして、さらに「より豊かな」生活を求めて80年代の後半から「バブル経済期」に突入する。しかし、90年代に入ると「金(カネ)がすべて」といった思想に基づくバブル経済は一挙に崩壊する。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(12) 文・黒古一夫(文芸評論家)

解体・流動化する「家族」

多くの経済学者が指摘するように、1950年代半ばから始まった高度経済成長期、73年からの安定成長期を経て、80年代後半から突如、日本列島はバブル景気に沸き、日本はそれまで経験したことのない「豊かさ」を手に入れた。しかし、その半面、80年代以降、少子高齢化や離婚率・未婚率の上昇、貧富の差の拡大、老老介護、等々の現象が加速度的に進み、社会問題として深刻化する中で、果たしてこの日本は本当に「幸せ」な社会なのか、といった疑問を抱く人が増えていく。

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