『「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年』

「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(10) 文・黒古一夫(文芸評論家)

「アメリカ化」の果てに

戦中は、軍部主導により「鬼畜米英」「撃滅米英」、戦後の占領期には反米思想から「ヤンキー・ゴーホーム」という言葉が唱えられた。これを経て、1960年代に入ると、東西冷戦がますます厳しさを増し、日米安全保障条約が改定された。この締結は、戦後の日本の方向性を明らかに決定づけるものであった。政治(外交・軍事)はもちろん、経済面や文化面、あるいは生活の仕方(ライフ・スタイル)などあらゆる面で、それまで以上にアメリカに「追随」していくことを予測させ、事実そう進んだということである。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(9) 文・黒古一夫(文芸評論家)

安定成長期にあって「途方に暮れる」僕たち

1960年代の半ばから順調に進展してきた高度経済成長も、70年代に入ると安定成長期に入る。そんな70年代は、半年余りで6421万人余りを集めた日本万国博覧会(大阪万博 1970年3月15日~9月13日)と、同じ年の11月25日に起こった、ノーベル文学賞候補・三島由紀夫が自衛隊市ヶ谷駐屯地(現・防衛省本省)で衝撃的な自刃(割腹自殺)を遂げた「三島事件」で始まった。この二つの事実は、70年代がどのような様相を呈するものになったかを如実に物語っていた。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(8) 文・黒古一夫(文芸評論家)

ベトナム戦争と高度経済成長の「闇」

戦後の経済史が私たちに教えてくれるのは、日本が朝鮮戦争の特需によって戦後復興を軌道に乗せたことである。さらに、1964年の東京オリンピックに向けた開発と60年代に入って激化したベトナム戦争の特需によって高度経済成長を成功させ、戦前には考えられないような「豊かな生活」を人々が享受するようになった、ということである。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(7) 文・黒古一夫(文芸評論家)

施政権返還前(占領下)の沖縄

私たちが忘れてならないのは、アジア太平洋戦争(第二次世界大戦)が終わって日本は「平和国家」として再出発したが、世界の各地では、大戦後のアメリカとソ連の対立による東西冷戦構造を反映した、さまざまな戦争が起こっていたということである。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(6) 文・黒古一夫(文芸評論家)

戦争の「本質」に迫る

1950年代の日本社会と文学との関係を考える時、忘れてならないことがある。それは、前回の第5回でも触れたように、敗戦後から続いていた連合国による「占領」下の1950年6月に朝鮮戦争が起こったこともあって、「戦争」及び「戦争体験」の意味を問うという戦後文学に通底するテーマの一つが、より深化した形で浮上してきたことである。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(5) 文・黒古一夫(文芸評論家)

敗戦―占領

もう30年ほど前のことになる。大学の授業で「戦争文学」について取り上げた時のこと。1941(昭和16)年12月8日、日本がアメリカ・イギリスなどに宣戦布告して太平洋戦争が始まったことを告げ、1945年8月15日に、「ポツダム宣言」を受諾して満州事変(1931年)以来のアジア太平洋戦争(15年戦争)が終わったという話をすると、講義の最後で一人の学生が手を挙げ、「僕は、今日の授業で初めて日本がアメリカと戦争したことを知りました。それで、どちらの国が勝ったのでしょうか?」と質問されたことがある。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(4) 文・黒古一夫(文芸評論家)

戦後社会、もう一つの原点

慶應義塾大学の文学部英文科を卒業し、東京に近い千葉・船橋で中学校の英語教師をしていた原民喜は、空襲の激しくなった東京周辺を離れ故郷の広島に帰郷して間もなく、テニアン島から飛び立ったエノラ・ゲイ号(B29戦略爆撃機)から投下された原爆によって、1945年8月6日午前8時15分、被爆する。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(3) 文・黒古一夫(文芸評論家)

戦争が終わって

1945年8月15日、日本がポツダム宣言を受諾し、戦争を終結することが全国民に発表された。これは、1894(明治27)年の日清戦争に始まり、日露戦争(1904・明治37年)、第一次世界大戦への参戦(1914・大正3年)、シベリア出兵(1918・大正7年)、山東出兵(第一次・第二次 1927~28・昭和2~3年)、満州事変(1931・昭和6年)、日中戦争(1937・昭和12年)、ノモンハン事件(1939・昭和14年)、太平洋戦争(1941・昭和16年)と50年以上の長きにわたって続いた「戦争の時代」が、ようやく終わったことを意味する。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(2) 文・黒古一夫(文芸評論家)

フクシマ後を予見する「ディストピア小説」

前回に引き続き、「現代」について言及しておきたいことがある。それは、未曽有の「好景気」が喧伝(けんでん)される現代に「暗い影」を投げかけているもう一つの要因についてである。

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「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(1) 文・黒古一夫(文芸評論家)

文学(者)の役割と「時代・状況」との関わり

「『時代』の声を伝えて」という連載は、「1938(昭和13)年~1950(昭和25)年」以降、約10年ごとの戦後の時間を対象に、文字通り「時代の声」を代弁する企画である。つまり「時代を刻印する」文学作品の歴史的・芸術的意味を考察するという試みでもある。果たして「文学」はこの80年間どのような「声」を上げ続けてきたのか、読者の皆さまとご一緒に考えていけたら、と思っている。

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