内藤麻里子の文芸観察
内藤麻里子の文芸観察(84)
奇想の中に、現代世界の権力構造を突きつける異色作が白石一文さんの『とめどなくちいさき人へ』(祥伝社)だ。これを書いたのは作家の怒りか、絶望か。そして私たちは、これに何を思うのかが大切なのだと思う。
内藤麻里子の文芸観察(83)
稀代の人気作家、東野圭吾さんが亡くなった。訃報に接した時は愕然(がくぜん)とした。その直後の8月5日、最新刊『永遠の記憶』(文藝春秋)が発売になった。ドラマ化、映画化された人気シリーズ「ガリレオ」の“最後の謎”と銘打たれている。
内藤麻里子の文芸観察(82)
吉田修一さんの『タイム・アフター・タイム』(幻冬舎)は、泣きたくなるような青春恋愛小説であり、まっとうに生きている人間の姿を描く。繊細に紡がれてゆく彼らの物語はあまりにもいとおしくて、まるで作者から宝物をもらったような気分になった。
内藤麻里子の文芸観察(81)
「家族」と聞いて、あなたが思い浮かべるのはどんな家族だろう。親がいて子がいて、親は子を育て、躾(しつ)け、叱り、食事を共にし、団欒(だんらん)する。もしこう考えたなら、かなり時代遅れといえる。今は“超「個」の時代”だ。食事は孤食だし、親は自分が大事だから、自分が楽しくない躾(しつけ)なんかしない。それを学校に期待するなど、子育てのアウトソーシングが進んでいる。そんな現代の家族の実態を、私は『ぼっちな食卓―限界家族と「個」の風景』(岩村暢子著・2023年刊)で知った。今回紹介する武田綾乃さんの『ここはこどものいない国』(講談社)は、この現代の家族が行き着く、あり得べき未来を見事に描き出している。
内藤麻里子の文芸観察(80)
凪良(なぎら)ゆうさんの『多類婚姻譚』(講談社)は、結婚をめぐる関係性を通して、現代社会を生きる多難さが浮き彫りになる短編集だ。結婚間際のカップルもいれば、結婚という形にとらわれない登場人物もいる。解像度高く現代人を見つめている。
内藤麻里子の文芸観察(79)
天沢時生さんの『キックス』(集英社)は、亡き友への哀歌を謳(うた)いあげる、企(たくら)みに満ちたとびきり奇想の小説だ。哀歌を彩るのはキックス(これはスニーカーのスラングだそうだ)と、ヤンキーの抗争と、太平洋戦争だ。それらを言葉(物語)の贋作(がんさく)でくるみ込んでいるのである。何のことやらとお思いだろう。順を追って説明しよう。
内藤麻里子の文芸観察(78)
独自の世界観で歌舞伎を描いた『化け者心中』(2020年刊)、『おんなの女房』(22年刊)などで注目されてきた蝉谷めぐ実さんが、新機軸に挑んだ。それが『見えるか保己一(ほきいち)』(KADOKAWA)である。江戸時代後期、古今の貴重な文献を集めて分類、収録した国内最大の叢書(そうしょ)『群書類従』を編纂(へんさん)した全盲の国学者、塙保己一を題材にして、また独特な世界を現出させた。その書きっぷりに心底驚き、魅了された。
内藤麻里子の文芸観察(77)
高田大介さんの『エディシオン・クリティーク』(文藝春秋)は、文献をめぐる知的探求ミステリーの興奮と、元夫婦の関係を高尚に、しかもコミカルに描く面白さが詰まった異色作だ。
内藤麻里子の文芸観察(76)
『のぼうの城』(2007年)、『村上海賊の娘』(2013年)など、寡作ながら出れば話題になる和田竜(りょう)さんの12年ぶりの新作は『最後の一色』上・下巻(小学館)だ。室町時代から200年近く丹後守護を務めてきた一色家の最後を描いた作品だが、こんな戦国小説、読んだことがない。時間をかけて丁寧に構築された世界で武将たちが躍動し、意外性と情け深さに翻弄(ほんろう)される。
内藤麻里子の文芸観察(75)
野宮有さんの『殺し屋の営業術』(講談社)は、殺し屋たちが織りなすだまし合いを描いた知的で刺激的な作品だ。コンプライアンスに配慮しなければならない時代に、エンターテインメントに振り切った殺し屋の世界を描き出してみせた。小説とはこういうものだ。










