「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(19) 番外編3 文・黒古一夫(文芸評論家)

「ユートピア」を求めて(3)――SF仕立てで「未来社会」を予想

日清戦争(1894・明治27年)に始まって、日露戦争(1904・明治37年)、第一次世界大戦(1914~18・大正3~7年)を経て、満州事変(1931・昭和6年)、日中戦争(1937・昭和12年)、太平洋戦争(1941~45・昭和16~20年)という、50年以上にわたる長い戦争の時代が1945(昭和20)年8月15日に終わる。これによって日本はかつて経験したことのない連合国(アメリカが中心)による「占領」下に置かれるのだが、戦争の苦しみを体験した人々は「平和」と「民主主義」の到来に胸を躍らせることになった。

「国民主権」「平和主義」「基本的人権の尊重」を三大原則とする日本国憲法は、まさに日本が「新しい社会」への第一歩を踏み出したことの象徴であった。戦争に負け、飢餓と混乱の極致にあった日本が、度重なる戦争で疲弊していた世界に先駆けて「戦後復興」を成し遂げられたのも、誰もが共通して「新しい」戦後的価値をわがものとして、「前」へ進もうとしたからにほかならなかった。そんな「新しい時代」の到来を、さらに象徴したのが、1949年の物理学者・湯川秀樹のノーベル賞受賞であった。敗戦国の学者(研究者)がノーベル賞を受賞するという快挙は、まさに「平和国家」日本が今後「科学=学問」や「経済」の分野で世界に羽ばたいていくことを暗示していた。それ故に、人々は湯川秀樹の受賞を誇りに思い、喜んだのである。

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