栄福の時代を目指して(21) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

画・国井 節

平和回復への希望――不正なイランへの先制攻撃

アメリカとイランの戦争は、6月15日に戦争終結合意が発表され、事態が大きく好転した。これが恒久的な終戦へとつながることを心から祈りたい。

ちょうどこの日私は、アメリカとイランの戦争に関する講演を行うことになっており、朝に報道された合意内容についても分析を加えた。両国が合意した内容が実現すれば、実質的にはアメリカの事実上の敗北(イラン周辺からの米軍撤退など)、イランの完全勝利(制裁停止、凍結資金解除、復興資金計画、レバノンを含む戦争停止など)になる。私は「正義に即した平和」を祈っていたが、まさしくそれに相当する。

ただ、イランは核兵器製造を行わないという約束を再確認したが、署名後の60日間で核問題(濃縮ウランなど)に関する交渉が行われることになっており、イスラエルは合意に反対し、レバノンに対する攻撃を続けて妨害しようとしている。ホルムズ海峡封鎖は30日以内に解除することになっているが、すぐにエネルギー危機が解消されるわけではなく、日本政府が十分な対応を行わない可能性もある。

そこで講演後、聞きに来ていた関係者が協議を行って、情勢が流動的なので船舶通過のためにイランとの友好的外交を求める署名活動は継続することになり、この状況に即して政府への要請を行うことを検討している。

実際、当初予定されていた署名式はなくなって、17日に両国がヴェルサイユ宮殿とテヘランで別々に覚書に電子署名を行い、21日にスイスで初めの交渉が行われたが、アメリカのトランプ大統領の威嚇に反発してイラン代表団が退席して、カタール・パキスタンを介した交渉になった。

事態が動く1週間前(6月8日)、鳩山友紀夫元首相はじめ6人の政治家と、政治学(筆者)・エネルギー分析(境野春彦)・中東研究(宮田律)・宗教学(島薗進)・経済学(金子勝)、ジャーナリズム(竹信三恵子)といった専門分野の人間が集まり、記者会見を行った。多角的な観点から発言がなされて、メディアで報道された(外部サイトの「『最新情報』(note)」参照)。

この「生活と平和」のための緊急声明は、戦争に反対して平和の回復を訴えるとともに、迫り来るエネルギー危機に対して生活を守るために、日本政府がイランと友好的な外交を行って、ホルムズ海峡を船舶が通過できるように交渉することを求めるものだ。これと政治哲学との関係を尋ねられることがあるので、講演で話した私自身の考え方について、なるべくわかりやすく説明しよう。最重要な点は、アメリカ・イスラエルのイランに対する先制攻撃が法的にも倫理的にも正義に反していることであり、ここから全ての問題が波及している。

アメリカ・イスラエルの軍事行為が国際法違反であるとして、スペインなどの一部ヨーロッパ政府をはじめ、さまざまな国際機関や、多くの国際法専門家が批判している(国際法律家委員会:3月1日*、米国際法学会:3月2日*、100人以上の国際法専門家・共同公開書簡:4月2日*)。国連憲章第2条第4項の武力行使禁止原則に反しているからだ。例外(安保理決議の存在や、現実の攻撃に対する自衛権行使)には該当しない。

さらに政治哲学では「正戦論」という議論がある。戦争を肯定し促進するための議論ではなく、「正義の戦争」を最低限に限定し、戦争を減らすための理論だ。正戦論に当たるための第一の要件として、「開戦における正義」がある。ここにおいて、(イランからの窮迫した脅威は存在せず、外交交渉中の先制攻撃なので最後の手段でもないから)先制攻撃は、不正だ。逆に、自国が受けた攻撃に対しては自衛権があるから、自衛のための反撃は不正ではない。

ただ、「正義」にかなう反撃と認められるためには、「戦中(交戦中)の正義」という第二の要件も満たす必要がある。たとえば、「戦闘員と非戦闘員を区別して、反撃を戦闘員対象に限定する」とか「反撃が、攻撃に相応する手段である(比例性)」などである。

第一撃で最高指導者や何人もの政府高官が殺されたのだから、それに相応する反撃という要件を適用すれば、イランがミサイルを発射して、両国の大統領や政府高官を殺害しても、この要件を満たすだろう。

では、周辺湾岸諸国にある米軍基地に対するイランの攻撃はどうだろうか。参戦していない中立国をイランが攻撃したのは、武力行使禁止原則違反であり不当だ――このような国際法解釈により、この点ではイラン非難が国際的に行われている(国連安保理決議第2817号など)。これに対してイランは、周辺諸国が自国内の米軍基地から出撃を許した時点で中立義務に反するため、米軍基地は「保護対象」ではなくなり、自衛権に基づく反撃が可能になると主張している。

この論点でイランの攻撃を不正と断じると、ある国を周辺諸国の基地から攻撃しても、基地に対する反撃ができないことになり、自衛が困難になる。アメリカ本土には、イランはミサイル攻撃ができず、対米反撃がほぼ許されないことになるからだ。トランプ政権が国際法違反の攻撃を行っても、アメリカから遠い国は反撃できないことになってしまう。これでは、超大国の横暴を抑止できない。よって、周辺諸国の米軍基地攻撃に対して、「開戦の正義」違反としてイランを断罪するのは、バランスを欠いていて必ずしも説得的ではない。

他方で米軍基地攻撃の「戦中正義」については、米軍の攻撃に相応する反撃かどうか(比例性)という議論が必要だ。多くの場合、イランの反撃は、両国の攻撃に対して応酬するという形を取っており、その内容も攻撃に対応するとイラン側は主張している。イスラエルや米軍基地への反撃も、軍事目標や情報機関に限定していて、民間人被害を抑える攻撃手法を取っているというわけだ。

「同害報復(キサース)」というイスラームの宗教的原理も影響しているのだろう。「目には目を、歯には歯を」と知られているものだが、自分が受けた被害以上の報復をしてはいけないという意味があり、国際関係における戦時の倫理としては、民間人攻撃やインフラの破壊を禁止することになる。正戦論における上記原則(攻撃に相応する反撃か:比例性)に近い。イランではイスラーム法学者の統治という理念が存在するので、イスラーム法(シャリーア)を侵害することは許されない。だから、この宗教的論理に即した形で反撃を行っているように思われる。

よって正義に適(かな)うかどうかを判断するためには、反撃がこの原則(比例性)に則しているかどうかを緻密に検討することが必要になる。宣戦布告なしにイラン指導部の多数を第一撃で殺害したことに対する反撃だから、正当と認められる範囲が広い。そのため、米軍基地に対する反撃を不正とは簡単には断定できず、緻密な議論が必要なのである。

*「Iran/United States/Israel: Unlawful attacks must cease」(2026年3月1日付)
*米国際法学会(ASIL=American Society of International Law)
Presidential Statement Regarding the Use of Force Against Iran」(2026年3月2日付)
*「Over 100 International Law Experts Warn: U.S. Strikes on Iran Violate UN Charter and May Be War Crimes」(2026年4月2日付)

イランによるホルムズ海峡封鎖――国際法違反と速断できない理由

イランによるホルムズ海峡封鎖はどうだろうか。イランは国連海洋法条約を批准していないものの、アメリカ側は、ホルムズ海峡をはじめ「国際海峡における航行の自由(通過通航権)」は全ての国が従うべき慣習国際法として定着しているから、特定の国を有害と判定して臨検・拿捕(だほ)したり、事実上の通行条件を課したりする行為は、公海航行の自由を侵す国際法違反と主張するだろう。

しかし、上記の特設サイトで詳しい記録が掲載されているように、駐日イラン・セアダット大使は、平時はホルムズ海峡を自由に通過することが可能だが、アメリカ側が戦争を開始したので、海峡を封鎖できると述べた。戦時秩序(戦時国際法)へと移行したので、戦時下でイランは、伝統的な海戦法規によって認められる固有の交戦権を行使でき、戦時海峡封鎖によって敵国船を排除できる、という主張だ。国際法上の論点はあるものの、理解は可能な論理だろう。

そしてイランからすれば、ホルムズ海峡はイランとオマーンの領海を含む国際海峡なので、非敵国の安全を通航手続き(政府要請)によって管理することは、領海管理権に基づき合法ということになる。実際に、日本に対しては、イラン政府と個別に交渉・調整すれば、船舶通過を認める用意があるとイラン政府は繰り返し述べている。先述の署名は、これに基づいて、友好的な交渉を日本政府に要請するものだ。

他方で、アメリカのホルムズ海峡封鎖には、正当な理由を見いだすのは極めて難しい。不正な先制攻撃を行ったのに、イランの封鎖を批判して(イラン関連船だけを目標にするという理由で)自国の封鎖を合法的と主張するのは、あまりにも一方的で、国際法の論理から見ても賛成する研究者はほとんどいないだろう。

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