「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(15) 文・黒古一夫(文芸評論家)

生命に深く関わる「食糧問題」を扱った異色の文学作品

そんな現実に危機感を抱いた作家がいた。北海道を舞台に「都会」と「田舎(自然・農業)」の対立を軸に物語が展開する『光る女』(1983年)で泉鏡花文芸賞を受賞し、2006年10月には作家生活30周年を記念した『小檜山博全集』(全8巻、柏艪社)を刊行した小檜山博である。そんな小檜山が2010年に書下ろした長編『漂着』は、まさに日本の「農」(食糧生産)が現在どのような状況にあるかを、改めて私たちに突きつける作品であった。

画・吉永 昌生

村に来た土木工事の技師と出奔した妻を捜しに札幌に出て来た主人公が、「野人」風な自分を馬鹿にする都会人に対して、持論を唱える。「自分の食うものは自分で作れ」「食料自給率40%は、誤った農政とそれを受け入れて来た国民のせいだ。このままではいつか日本は滅びる」と。やがて、「百姓党」の総支配となり、同志と共に総選挙に打って出て、日本の農業や食糧事情の現実を憂う国民の圧倒的支持を得て、百姓党は政権を担うことになる。

この21世紀になって現れた「現実」を徹底的に批判した「奇想天外」の物語は、まさに「文学が時代と共にある」ことを私たちに改めて教えてくれるものだ。ぜひ多くの人に読んでほしい、面白い小説である。

プロフィル

くろこ・かずお 1945年、群馬県生まれ。法政大学大学院文学研究科博士課程修了後、筑波大学大学院教授を務める。現在、筑波大学名誉教授で、文芸作品の解説、論考、エッセー、書評の執筆を続ける。著書に『北村透谷論――天空への渇望』(冬樹社)、『原爆とことば――原民喜から林京子まで』(三一書房)、『作家はこのようにして生まれ、大きくなった――大江健三郎伝説』(河出書房新社)、『魂の救済を求めて――文学と宗教との共振』(佼成出版社)など多数。近著に『原発文学史・論――絶望的な「核(原発)」状況に抗して』(社会評論社)がある。