「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(22)番外編6 文・黒古一夫(文芸評論家)

ユートピアを求めて(6)――北海道に「理想の国」を!

今年のNHK大河ドラマは、「明治150年」を祝う意味もあってなのか、明治維新の功労者・西郷隆盛を主人公とする『西郷どん』である。年末の終章に向かって最近はいよいよ「征韓論」を巡る政争――長州藩出身の木戸孝允を間に挟んでの、西郷と薩摩藩の同志であった大久保利通との争いの様相を帯びてきた。『西郷どん』の展開とは別に、明治維新に関わる歴史において、「日本史」の教科書にも記されていない、「闇に葬られた」類の出来事が多々あることを、私たちのどれほどが知っているだろうか。例えば、「蝦夷共和国」である。

1868(慶応4・明治元)年からその翌年まで、討幕派(薩長などの西南雄藩を中心とする官軍)と佐幕派(徳川幕府軍および奥羽越列藩同盟軍)とが、「戊辰戦争」という熾烈(しれつ)な戦いを1年余りにわたって繰り広げたことはよく知られている。その結果、箱館(函館・北海道)の五稜郭を拠点に、江戸幕府の海軍奉行である榎本武揚や新選組副隊長の土方歳三らをリーダーとして官軍と戦ったことも学校で習う。だが、榎本武揚や土方歳三らが箱館、松前、江差などを掌握して「蝦夷共和国」をつくったことは、ほとんど知られていない。

もちろん、「蝦夷共和国」(=あり得たかもしれない『もう一つの日本』)の政治体制がユニークだったのは、政権幹部たちを「入れ札=選挙」で選び、そのような政治体制をフランスなどの各国代表に認めさせていたことである。

【次ページ:もう一つの「日本」の可能性を示した歴史に学ぶ】