気づきを楽しむ――タイの大地で深呼吸(23) 写真・文 浦崎雅代(翻訳家)

タンマヤートラを卒業論文で取り上げるため、事前に調査し、参加した農学部の女子大学生がいた。今回のタンマヤートラでは、宿泊する各寺で植林を行ったのだが、森林に興味を持っていた彼女に、植林の感想を聞いた時、私は一瞬耳を疑った。「実は私、生まれて初めて木を植えました」と彼女が話したからだ。

農学部の学生ならば当然、植林の経験があると思っていた。だが、伐採はしたことがあっても、植えたことはなかったのである。さらに、彼女はこう続けた。「大学の授業で学ぶのは、生産性が高く、売れる木をいかに効率良く育て、伐採するか、ということばかりです。木を植えるなど、自然環境の保護に取り組んだことはありませんでした」と。もちろん、日本とタイの森林事情は違うので、安易に善悪を論じることはできない。だが、彼女の言葉は、経済的価値を離れて植林する大切さを、改めて私自身が考えるきっかけとなった。

もう一人紹介したいのが、沖縄で平和運動に従事する30代の女性だ。彼女は毎朝、各寺で村人が参加者に食事を布施する様子や、村人が家の前に飲料水やジュースを置いて参加者に振る舞い、歩く私たちに対して合掌する姿に、深い信仰心を感じ、美しく尊いことであると感動していた。そして、歩きながら自らを振り返ったという。すると、普段、自分の置かれた立場や環境、触れ合う相手など、自分の外側のことばかりに目を向け、それをどうにかしようと常に考えていたことに気づいたという。そこから、大切なのは自身の内側、つまり、心の修行の大切さであるとの思いに至ったそうだ。沖縄に帰られた今も、心の修行に取り組みながら、彼女の平和への歩みは続いている。

環境保護と平和運動。どちらも目的地が遠く、一人の力だけでは成し得ないものの、それぞれが自分の足で歩んでいくことが重要だ。それは旅に似ていて、とても長い道のりである。人生という旅も同じであろう。ただ、今、ここで、しっかりと気づきを大切にして歩く。これを支えてくれるのが善き友の存在である。私自身も、誰かの善き友として歩みたいと強く思う。長い旅の秘訣(ひけつ)は、そこにあるのだから。

プロフィル

うらさき・まさよ 翻訳家。1972年、沖縄県生まれ。東京工業大学大学院博士課程修了。大学在学中からタイ仏教や開発僧について研究し、その後タイのチュラロンコン大学に留学した。現在はタイ東北部ナコンラーチャシーマー県でタイ人の夫と息子の3人で生活している。note(https://note.mu/urasakimasayo)にて毎朝タイ仏教の説法を翻訳し発信している。