気づきを楽しむ――タイの大地で深呼吸(51) 写真・文 浦崎雅代(翻訳家)

タイ移住生活5年間を振り返って(前編) 違いを知り、違いを楽しむ

毎月1回、タイでの体験や学びをエッセーでお届けしてきたこの連載も、来月で最終回となる。この連載が始まったのは、ちょうど私たち家族が新しい人生のスタートを切った頃だった。今回と次回の2回にわたって、これまでの暮らしを振り返り、学びを記していきたいと思う。

6年前、私たち夫婦は共に大学の講師をしていた。息子を授かったのをきっかけに、二人とも大学を辞めて、田舎に移住した。当時私は、日本であまり知られていないタイ仏教のことを日本語で発信していきたい、という思いが強くなっていた。夫は組織に依存して生きるよりも、生きる上で本当に大切な力を鍛えて自立したい、農業をしながら自然と共に暮らしたいという意識が強くなっていった。息子を育てる上でも、自然の恵みを感じながら、親が試行錯誤しながら生きていく姿を見せていくのは大切なことではないかと、二人で決意を固め、新しい生活がスタートした。

縁あってウィリヤダンマ・アシュラムという瞑想(めいそう)修行場の一角に居を構え、修行に励む僧侶や在家信者の方などの善き友に恵まれた。また、定期的に瞑想修行に来られる訪問者たちとの出会いも、さまざまな刺激を得るものだった。特にこのアシュラムには、日本や中国からの修行者がよく訪れるので、彼らとの国際交流も楽しみの一つとなった。

私がこの新しい生活で学んだことを言葉にすると「違いを知り、違いを楽しむ」に尽きる。私はそれまで、日本でもタイでも、都市部でしか生活したことがなかった。電気も水もガスも、お金さえ払えばいつでも不自由なく使えるのが当たり前。それが今は、ポータブルの太陽光発電パネルで発電し、水をアシュラムの仲間たちとシェアしながら暮らしている。ガスはプロパンガスを使い、使い切ったら近所の雑貨店まで行って交換する。このスタイルが当たり前になった。

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