気づきを楽しむ――タイの大地で深呼吸(46) 写真・文 浦崎雅代(翻訳家)

プラス思考とは、今あるものに目を向けること――パイサーン師による日本人向けのオンライン説法会から

先月、私が最も尊敬する僧侶のパイサーン・ウィサーロ師をお招きし、日本の方に向けてオンラインで説法をして頂いた。

パイサーン師は、タイ東北部にある森の寺「スカトー寺」の住職。その説法は、仏の教えが分かりやすく説かれるだけでなく、社会のさまざまな課題と仏法とをリンクさせて学びに落とし込むため、何度聞いても心に響く。〈一人でも多くの方に素晴らしい説法をお伝えしたい〉。そう思い、私が通訳・翻訳家になるきっかけを頂いたのが、パイサーン師だった。

今回のオンライン説法のテーマは『人生に起きたことの全てを成長の糧とする』。私たちが苦しんだり、行き詰まったりした時、どのように心を整えたらいいのかについてヒントが語られた。パイサーン師の説法には、例え話がたくさん出てくる。苦しみを抱えていた人が、その苦しみから解放されていく過程を具体的に知るうちに、自然と励まされるのだ。師が紹介してくださったエピソードの一つを紹介したい。

20年ほど前、タイ人のあるサッカー選手が活躍していた。彼はナショナルチームの一員で、タイのスーパースターだ。国内リーグでキャリアをスタートさせ、ベトナム、シンガポール、マレーシアの各国リーグを渡り歩いて結果を残した。そして、イングランド・プレミアリーグのクラブに移籍した。

彼の夢は、イギリスでプレーすることだった。夢を実現できると思った彼は、非常に喜んだ。しかし、渡英はしたものの、シーズンを通じて一度も出場機会を得られず、シーズン終了と同時に契約が切れ、失意の中、帰国したのだった。

帰国後、多くのメディアが彼にインタビューを試みたが、彼は応じなかった。失望感でいっぱいだったからだ。しかし、数年が経ち、彼はインタビューを受けた。その時、彼は満面の笑顔でこう語った。

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