弱小チームから常勝軍団へ~佼成学園高校アメリカンフットボール部「ロータス」クリスマスボウル3連覇の軌跡~(1) 文・相沢光一(スポーツライター)

日本一を獲ることの難しさ

本稿では今後、回を追って佼成学園ロータスが日本一を勝ち取るまでの軌跡を述べていくが、その前にクリスマスボウルの価値や勝つことの難しさを知っていただくために、日本の高校アメリカンフットボールの構図を紹介しておきたい。

クリスマスボウルは大学王者を決める「甲子園ボウル」と同様、東日本の覇者と西日本の覇者とが対戦する形をとっている。統括組織は関東高等学校アメリカンフットボール連盟と関西高等学校アメリカンフットボール連盟のふたつ。関東連盟に加盟している高校は東京地区34校、神奈川地区17校、埼玉・茨城・千葉地区11校、北海道地区2校、静岡地区3校の計67校、関西連盟加盟校は大阪地区16校、兵庫地区10校、京都地区4校、滋賀地区5校、愛知・岐阜地区3校、広島地区2校の計40校だ。

加盟校は各地区で行われる秋季大会兼全国大会予選(9~10月)に出場。この上位10校ずつが関東大会と関西大会(10~11月)に進出し、両大会を制した高校同士がクリスマスボウルで日本一の栄冠を争うわけだ。

加盟校の所在地区と校数が示す通り、アメリカンフットボール部をもつ高校に全国的な拡がりはない。この原因としては、まず競技に親しむ土壌ができていないことが挙げられるだろう。アメリカンフットボールは野球やサッカーのような一般的人気はなく、子どもたちが試合を見て憧れる対象になり得ていないし、ボールを使って遊ぶ機会もほとんどない。親しみをもてる競技ではないのだ。

競技の特性から、部を成立させるにも多くのハードルがある。アメリカンフットボールは数多くのプレーヤーが必要だが、体がぶつかり合う激しい競技であり、「ケガが心配」「ヘルメットをはじめとする防具をそろえなければならない」といった理由で選手はなかなか集まらない。また、ポジションごとのスキルや複雑なフォーメーションやサインプレーがあり、それを教えることができる指導者や練習環境も欠かせない。そうした数々のハードルがあるため、おいそれと立ち上げることはできない部なのである。だから、部があるのはアメリカンフットボール人気の高い関東と関西の地域に限られることになるわけだ。

そのため、関東連盟と関西連盟の加盟校を合計しても100校足らずだ(しかも部員数がそろわず試合に出られない高校もある)。今年の全国高校野球選手権(夏の甲子園)の予選に参加した高校は全国で3700校あまり。全国サッカー選手権の予選参加数は4000校を超えるといわれる。それに比べるとアメリカンフットボールの参加校はあまりに少ない。競争率が低いのだから、クリスマスボウルで勝っても、それほどの価値はないと思う人もいるかもしれない。

しかし、日本一の座を争う戦いは競争率とは関係なく、どの競技でも厳しい。もちろんアメリカンフットボールもそうだ。日本の頂点を決める大会は1月3日に行われる「ライスボウル」。社会人と大学生のナンバー1が雌雄(しゆう)を決する大会である。アメリカンフットボール選手なら誰もが出場し、ここで勝利することを夢見る大舞台であり、どのチームもそこに近づくための努力を惜しまない。

チームを強くするには能力の高い選手を獲得することが不可欠であり、リクルーティングにも力を入れている。大学の場合は付属高校を強くすることが、それに直結するわけだ。だから有力大学の付属高校は争うように練習環境を整え、実績ある指導者を招くといった強化体制を敷いている。

また、マイナースポーツといわれているが競技人口やファンは着実に増えている。アメリカンフットボールは一度その魅力にとりつかれたら、離れられなくなるスポーツ。競技経験者が家庭をもち、男の子が生まれたらフットボールをやらせたいと思うだろうし、親戚や知人に優れた身体能力をもつ子がいたら勧めずにはいられないわけだ。現在の高校アメリカンフットボール界には、そうした“二世選手”が増えている。能力に秀でた選手が最高の環境で高度な指導を受けるのだから、競技レベルは相当高くなっているわけだ。

考えてみれば、どの高校スポーツも日本一を争う高校は一部の有力校に限られている。3700校が参加する硬式野球にしても、甲子園に出場し上位に進出できるレベルに達しているのは全国でも100校にも満たないだろう。高校アメリカンフットボールもそれと同様で、トップのレベルは高く、厳しい戦いを勝ち抜かなければ日本一にはなれないのだ。

この厳しい高校アメリカンフットボールにおいて3年連続で日本一となり、常勝軍団と呼ばれるようになったのが佼成学園だ。しかも佼成学園にはハンデがある。大学の付属高校ではないことだ。前述した通り、高校の強化は大学の強化に直結するし、部員も原則的に受験免除で競技に集中できる有利さがある。実際、クリスマスボウルの成績を見ると、佼成学園が初優勝した2016年以前は、24年間にわたって大学の付属校が優勝している。

佼成学園の部員は3年で部活を終えたら大学受験が控えており、部活だけに集中するわけにはいかない。勉強を両立させなければならないのだ。この厳しい状況を乗り越え、いかにして常勝チームがつくられたのか。

小林監督とチーム強化に携わった関係者、そして選手の証言を交えて探っていく。

プロフィル

あいざわ・こういち 1956年、埼玉県生まれ。スポーツライターとして野球、サッカーはもとより、マスコミに取り上げられる機会が少ないスポーツも地道に取材。著書にアメリカンフットボールのチームづくりを描いた『勝利者―一流主義が人を育てる勝つためのマネジメント』(アカリFCB万来舎)がある。