弱小チームから常勝軍団へ~佼成学園高校アメリカンフットボール部「ロータス」日本一3連覇の軌跡~(5) 文・相沢光一(スポーツライター)

1年生にも実践的な指導を行い、アメリカンフットボールの面白さを知ってもらうことで「ロータス」は着実に強くなっていった。主体的に練習に取り組む選手の存在が、チーム力向上に好循環をもたらしていく。

「ロータス」の新入部員の鍛え方

「まず部員に求めるのは、アメリカンフットボールを好きになってもらうこと」

小林監督の、この指導方針はロータス特有の文化を生んだ。

好きになれば向上心が芽生える。監督の指導を「待つ」のではなく、自らどうしたら巧くなれるか、プレーを楽しめるかを考えるようになる。その姿勢が、部員同士でアドバイスし合う習慣を生み、覚えなければならないことがたくさんある1年生に対しては、2・3年生が指導する文化に発展していった。

団体で行うボールゲームには例外なくポジションがあるが、アメリカンフットボールほど、その役割やスキルが明確に分かれている競技はない。役割が分かりやすいのは、ボールを前進させるプレーに直接関わる攻撃陣だろう。司令塔であるクオーターバック(QB)はプレーを始めるコールを発し、センター(C)から受け取ったボールをランニングバック(RB)に渡したり、ワイドレシーバー(WB)にパスしたり、時には自ら走って前進を図ることもある。RBが主にボールキャリアとなり、相手守備陣のギャップを走り抜ける役目、WBは相手のマークを交わして、QBからのパスをキャッチする役目を担う。

それとは対照的に、ボールが置かれるスクリメージラインで対峙するラインの選手の役割は地味だ。体を張って相手を止めるのが主な役目。ボールゲームというより格闘技をしているようなものだ。ディフェンスラインの選手は、ボールキャリアのファンブル(ボールを落下させてしまうこと)やパスインターセプト(横取り)を狙うなど、ボールに関与するプレーもあるが、オフェンスラインの選手はボールに触ることはほとんどない。そもそもQBやRBのプレーは自分の背後で行われており、見ることもできないのだ。

このようにアメリカンフットボールはポジションによって役割もスキルも大きく異なり、部活を始めたばかりの1年生にとってそれを理解するのがひとつのハードルとなる。そこで、3年生と2年生が自分と同じポジションを選んだ後輩の指導をするようになったのだ。

ところで1年生は、どのようにしてポジションを決めるのだろうか。

「まずオフェンスチームに入って練習してもらうことから始めます。どのようにしたらボールを前進させることができるのか、実際にプレーしてみることでアサイメントの重要性も含め、ゲームの原理原則が分ってくるからです。また、オフェンスを知ることで、ディフェンスの動きやその役割も理解できるようになりますから、ディフェンスにもチャレンジさせる。そのようにして、様々なポジションを体験するうちに、やってみたいポジションや自分が向いていそうなポジションが見つかるわけです」(小林監督)

ポジション選択は基本的に部員本人に任せている。“このポジションでプレーしたい”というモチベーションを大切に考えているからだ。そうは言っても、足の速さに自信がある選手はRBやWR、最後尾で守るセイフティ(SF)などを希望するし、体が大きい選手はラインを選ぶというように、大体ポジションに合った選択に収まるという。

ただ、ロータスの成績が上がってきた頃から、いくつかのポジションには一定の基準をクリアすることが必要だというハードルができた。

「アメリカンフットボールの練習には40ヤード走というものがあります。メートルに換算すると約36.6m。この短い距離をスタートのダッシュ力を含めていかに速く走り切るかが、選手の走力を測る目安になる。現在、ロータスでは4秒台を出すことがRBやWRになるための条件。このポジションを希望する部員は5秒を切る努力を日々続けています」(小林監督)

こうした厳しさはあるにせよ、1年生は全員、ほぼ希望するポジションに就く。そして彼らを指導するのが先輩なのだ。これはロータスの部員たちの間にごく自然に生まれ、継続されてきた文化だが、小林監督はこの美風をさらに生かすことを考えた。自分のポジションに必要なスキルやアサイメントを身に付けた上級生を指導役に指定し、同じポジションの1年生を1対1で教えることを部の決まり事にしたのだ。これは思わぬ効果を生んだ。

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