幸せのヒントがここに――仏典の中の女性たち(6) 文・画 天野和公(みんなの寺副住職)

画・天野 和公

花咲く人生――ヴィサーカー

ヴィサーカーは、アンガ国随一の富豪の娘です。彼女はわずか7歳の時にお釈迦さまの説法を聞き、悟りの第一段階に至りました。やがて美しい娘に成長すると、コーサラ国の富豪ミガーラの息子に嫁ぎました。

ある日、家長ミガーラは信仰する宗教の修行者たちをおおぜい家に招きました。しかし接待役となった嫁のヴィサーカーは、彼らの高慢な態度にあきれ返り、自分の部屋にひきこもってしまいます。面目をつぶされたミガーラですが、どうにかその場を収め修行者たちを帰すと、やれやれと一人で食事を始めました。そこに、仏教の僧侶が托鉢(たくはつ)に現れました。

虫の居所の悪いミガーラは、この僧侶を完全に無視しました。様子を見ていたヴィサーカーは慌てて駆けつけると、僧侶にこう詫(わ)びました。「お坊さま、申し訳ありませんがお布施はできません。いま義父は残飯を食べているのです」。

この一言で、ミガーラの堪忍袋の緒が切れました。「今すぐに出て行け!」。仲人を務めた8人の長者が集められ、どちらに非があるのか話し合いが持たれました。

怒りが収まらない様子のミガーラに、ヴィサーカーは静かに語り掛けました。「お義父さま、あなたは托鉢のお坊さまを見て見ぬふりをされました。この家に嫁いで以来、あなたが善い行いをなさっているのを見たことがありません。過去の善い行いの結果で裕福なのに、今はただそれにあぐらをかき、消費するだけ。ですから『残飯を食べている』と言いました」。

これを聞いたミガーラは自分が恥ずかしくなり、すぐにヴィサーカーに詫びました。そして彼女が信仰するお釈迦さまを家に招くことを許しました。カーテンに隠れてそっと説法を聞いたミガーラも悟りを得て改宗しました。義父も仏教に導いたヴィサーカーは、周囲から敬意を込めて「ミガーラマーター(ミガーラの母)」と呼ばれるようになりました。