幸せのヒントがここに――仏典の中の女性たち(8) 文・画 天野和公(みんなの寺副住職)

絶望からの救い――パターチャーラー

仏典に登場する女性の中で、彼女ほど悲惨な体験をした人はいないでしょう。

彼女はコーサラ国の名家に生まれましたが、使用人と駆け落ちしました。息子が生まれ、二人目の子供がおなかに宿った頃、実家に戻り両親の許しを請おうとしました。

その道中で嵐に遭い、彼女は急に産気づきます。ところが出産に適した場所を探そうと林に入った夫は、毒蛇にかまれて息絶えてしまいました。嵐の中で壮絶な出産をし、一夜明けて何とか夫を埋葬すると、彼女は二人の子を連れて歩き出しました。

行く手を流れるアチラヴァティー川は、雨の影響で水位が上がっていました。二人の子を連れては、とてもいっぺんには渡れそうにありません。最初に赤ちゃんを向こう岸に渡し、続いて長男を迎えるべく再び川に入りました。

その時、大きな鷹が矢のように飛んできました。腕を振って追い払おうとしたのですが、鷹は無慈悲にも赤ちゃんをさらって飛び去ります。腕を振る母の姿に、長男は自分が呼ばれているのだと勘違いしました。「だめ。こっちに来てはいけない」。必死の声は届かず、長男は目の前で流されていきました。こうして彼女は家族を失いました。

「とにかく実家に帰ろう」。ほんのわずかに残った気力で立ち上がった彼女は、信じられない噂(うわさ)を耳にします。「その家なら昨日の嵐で壊れたよ。お気の毒に、家の人はみんな亡くなったそうだよ」。

もはや正気を保つことなどできませんでした。体から衣服が脱げ落ちても気づかず、うつろな目をしてフラフラと町をさまよい歩く彼女の姿は、この世のものとも思えない鬼気迫るものでした。ある人は怖がって逃げ、ある人は罵声を浴びせ、ごみを投げつけました。