幸せのヒントがここに――仏典の中の女性たち(5) 文・画 天野和公(みんなの寺副住職)

画・天野和公

自分より愛しいものはない――マッリカー

コーサラ国王妃のマッリカーは、身分の高い生まれでもなく、容姿もどちらかといえば、そう美人な方ではありませんでした。しかし気遣いに優れた癒やし系の女性だったようで、花畑の世話係だった彼女をパセーナディ王が見初めて、出会ったその日のうちにもらい受けたといわれています。マッリカーとは日本語の「茉莉花(まつりか)」、香り高いジャスミンの花のことです。

結婚した二人がある時、高楼の上層で話をしていた時のことです。王がマッリカー王妃に尋ねました。「なぁおまえ、おまえはこの世の中に自分よりも愛しい人がいるかい?」

王は「もちろんあなたです」という甘い答えを期待していたのでしょう。ところが王妃は予想に反してこう答えました。「そうですね、私が一番好きなのは、この私です。自分よりも愛しい人はいません」。王は驚きましたが、逆に「王さまはどうですか」と返されて、「うーん、言われてみれば、私も自分が一番好きかもしれないな」と答えました。そして後日、お釈迦さまの元にこのことを報告しに行きました。

お釈迦さまはマッリカーの返答を大いに褒めました。「その通りです。世界のどこを見渡しても、自分以上に愛おしく、大切な存在はありません。だからこそ、他の命を害してはならないのです」。

仏教の修行の一つに、慈しみの心を育てる修行があります。「幸福であるように。安らかであるように。悩みや苦しみがないように」。そのような優しい気持ちというのは自然に備わっているだけでは不十分で、あえて訓練して育んでいかなくてはならないものです。