新・仏典物語――釈尊の弟子たち

新・仏典物語――釈尊の弟子たち(16)

地獄の炎 デーヴァダッタ(I)

炉(ろ)の中で、焼鉄(やきがね)が真っ赤に焼けていました。それを見やり、デーヴァダッタ(提婆達多=だいばだった)はすぐさま目を背けました。これから、その焼鉄を足の裏に押し付けて、輪相(りんそう・千の輻=や=を持つ車輪の模様)を刻み込まなければならないのです。仏と同じ身体的な特徴を備えるためには、どんな苦痛にも耐える覚悟はできているものの、やはり心が震えるのでした。

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新・仏典物語――釈尊の弟子たち(15)

仏弟子・象のダナパーラ

城の通りに足を一歩踏み入れるやいなや、ダナパーラは全速で駆け出しました。太い足。舞い上がる砂塵(さじん)。突然の地響きに、驚き逃げ惑う人間の姿を、ダナパーラは目の端に捉えていました。前方に僧の一団。その距離が見る間に詰まりました。僧の集団が崩れ出しました。一人、また一人と僧侶が逃げ出し始めたのです。残ったのは二人だけでした。人間たちがブッダと呼んでいる男とその侍者。ダナパーラが狙っているのは、ブッダの方でした。

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新・仏典物語――釈尊の弟子たち(14)

刺客

自分の息遣いさえ聞こえてきそうだ、そう若者は思いました。林の中に身を潜め、一人の沙門(しゃもん)の動きを注視しているのでした。若者は弓を携え、剣を佩(は)いていました。沙門はやがて葉の茂った樹木の下に座し、瞑想(めいそう)に入りました。それを見定めると若者は腰の箙(えびら)から矢を引き抜きました。

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新・仏典物語――釈尊の弟子たち(13)

天よ、雨を降らせよ

雨の降らない日が続いていました。農民たちも、うらめしげに天を仰ぐばかりでした。まだ被害は出ていませんでしたが、このまま雨のない日が続けば農作物に影響が出てくることは目に見えていました。

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新・仏典物語――釈尊の弟子たち(12)

流れは、絶えずして

ガンジスの流れは、あまりにもゆったりとしていて止まっているようにも見えました。しかし、その流れは確実に下流に向かい、数日後には海に注ぎ込むことは間違いありません。<とどまることのない時の流れのようだな>。河岸にたたずみながら、アーナンダ(阿難)は、そう思いました。

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新・仏典物語――釈尊の弟子たち(11)

かくのごとく、われ聞けり

五百人の僧を引き連れマハーカッサパ(摩訶迦葉=まかかしょう)は、クシナーラー(クシナガラ)に向かっていました。先を行く釈尊と合流するためです。その途中、釈尊がクシナーラーで入滅したことを知らされました。その場は騒然となりました。カッサパは僧たちを励ましクシナーラーに急ぎました。

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新・仏典物語――釈尊の弟子たち(10)

友よ、きみは・・・・・・

遅い、あまりにも遅すぎる――舎利弗(しゃりほつ)は胸騒ぎを抑えることができませんでした。僧坊で、友・目連(もくれん)の帰りを待っていたのです。もうとっくに帰ってきてもおかしくない時間なのに、目連は姿を見せません。

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新・仏典物語――釈尊の弟子たち(9)

子だくさんのソーナー

若い尼僧たちにまじってコツコツと修行に励む一人の老女がいました。高齢であるため目立ちましたが、修行僧としては一目置かれる存在ではありませんでした。むしろ、同僚たちから軽んじられている気配もありました。「子だくさんのソーナー」。そう呼ばれていましたが、愛称というよりもそこにはやや軽蔑の響きがこもっていました。

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新・仏典物語――釈尊の弟子たち(8)

サイの角のごとく、ただひとり歩め!

その日、ラージャガハ(王舎城)の街は、お祭りで朝早くからにぎわっていました。

托鉢(たくはつ)を終えたマハーカッサパ(摩訶迦葉=まかかしょう)は、人ごみの中に忘れられない、いや、忘れてはならない女性の顔を見つけました。バッダー・カピラーニー。カッサパのかつての妻で、十二年間ともに暮らし、その後、それぞれが修道の旅に出るため家を捨て別れたのでした。

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新・仏典物語――釈尊の弟子たち(7)

ヒマラヤの山々も、泣いている

空が白みはじめると、雪に覆われたヒマラヤの峰々が、その姿を現し出しました。麓に広がる森の緑は、朝の光を受け、徐々に鮮やかさを増していきます。そうしたゆるやかな時の流れを、マンダーキニー湖の湖面は、静かに映し出していました。そして今、湖畔にある草庵で、一人の老修行者がひっそりと息をひきとろうとしていました。

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