新・仏典物語――釈尊の弟子たち

新・仏典物語――釈尊の弟子たち(34)

王の時代III 覇者

なだらかな稜線(りょうせん)が、夕日に赤く染まり始めました。マガダ国の都・王舎城(おうしゃじょう)を囲む山々は険しくはありませんでしたが、樹海は深く、天然の要害になっていました。その山並みを、マガダ国王アジャータサットゥ(阿闍世=あじゃせ)は、城の執務室から、時を忘れて眺めることがよくありました。動かぬもの、変わらぬものに心が引かれていたのかもしれません。

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新・仏典物語――釈尊の弟子たち(33)

王の時代II 執政官

軍の動きが、慌ただしさを増していました。ヴァイシャーリー討伐のために大掛かりな準備を始めたのです。

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新・仏典物語――釈尊の弟子たち(32)

王の時代I 釈迦族の滅亡

全軍が布陣を終え、城の包囲は完了しました。小高い丘に置いた本陣で、ヴィドゥーダバ王は床几(しょうぎ)に腰を下ろし、原野を埋め尽くした軍勢を見つめていました。時折、馬のいななきと具足の触れ合う音が聞こえ、頭上ではコーサラ軍旗がはためいていました。

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新・仏典物語――釈尊の弟子たち(31)

人の尊さ・贖罪 アングリマーラ

朝もやの中を、軍勢が駆け抜けていきました。騎馬と歩兵の部隊で、迅速に移動しながら散開し、瞬く間に森の中へ消えていきました。やがて、精舎(しょうじゃ)の包囲が完了した報告を王は受けました。「精舎から出ようとする者は、全て拘束せよ」。そう部下に命ずると、王は従者を連れ、精舎に向かいました。

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新・仏典物語――釈尊の弟子たち(30)

人の尊さ・自由 若き将軍

人混みの中で、釈尊は背中に熱いものを感じました。立ち止まり、振り返ると、男の視線にぶつかりました。男は会釈し、人をかき分けながら近づいてきました。

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新・仏典物語――釈尊の弟子たち(29)

人の尊さ・平等 村長の息子

土手の斜面に、二人の少年が寝そべっていました。十三、四歳で、身につけている衣服と装飾品から裕福な家の子弟であることが分かりました。

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新・仏典物語――釈尊の弟子たち(28)

生と死とIV 我も病み、老い朽ちたり

熱いものが、頰を伝わり落ちました。こらえても、まぶたを押さえても、涙はあふれ出ました。アーナンダ(阿難)は、壁に頭を押しつけたまま、顔を上げることができませんでした。床に涙の染みができていました。おえつを押し殺そうとして、アーナンダはせき込みました。

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新・仏典物語――釈尊の弟子たち(27)

生と死とIII 悲しみは胸に秘めよ

火柱が天に噴き上がりました。高く積まれた香木の上に安置された遺骸も、一瞬にして炎に包まれました。見守っていた人々は息をのみ、時間が凍りついてしまったようでした。時折、響く木の爆(は)ぜる音が、周囲の空気を震わせました。師匠の体を焼き尽くす炎を、チュンダは黙って見つめていました。

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新・仏典物語――釈尊の弟子たち(26)

生と死とII 闇は人の心も閉ざす

闇がかすかに震えたようでした。人を呼び求める気配が、深い静寂を通し、肌に触れてきたのです。釈尊は立ち上がり、自坊を出ると足早に歩き出しました。

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新・仏典物語――釈尊の弟子たち(25)

生と死と I われを礼拝するものは

破れた板壁の隙間から日差しが差し込んでいました。その光の筋が薄暗い庵(いおり)の中で臥(ふ)せっている若者の顔を照らしていました。若者は顔を背けようともしませんでした。もう、その力もなかったからです。頰はそげ、熱を帯びた目は潤み、身体に掛けた薄い上掛けが苦しそうに上下していました。この朽ちた庵で、若者が養生を始めてひと月ほど経っていました。若者は出家したばかりの名もない修行僧でした。

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