新・仏典物語――釈尊の弟子たち(29)

人の尊さ・平等 村長の息子

土手の斜面に、二人の少年が寝そべっていました。十三、四歳で、身につけている衣服と装飾品から裕福な家の子弟であることが分かりました。

「いやだなぁ」
 「何が」
 「親父(おやじ)のことさ」
 「どうして?」
 「威張りくさっているのさ、村の人たちに」
 「そりゃ、そうだろう。俺の親父だってそうさ。村人が金や種もみに困れば貸し出すし、祭りがあれば、それを取り仕切る村の長(おさ)なんだから」
 「でも、村人たちは決して尊敬なんかしていないぜ」
 「そんなことは百も承知で、村長(むらおさ)さまは困っている村人を助けているのさ」「下心があるからだろう」
 「何年かすれば、おまえも親父さんの跡を継ぐんだぞ。その時になって、親父の気持ちが分かったなんて俺は聞きたくないからな」

二人は口をつぐみましたが、やがて、村長を弁護していたバーラドヴァージャが身体を起こし立ち上がると、「待ってろ」とヴァーセッタに声を掛け、土手を駆け登っていきました。しばらくすると、バーラドヴァージャが戻ってきました。「さあ、行こうぜ」。ヴァーセッタは慌てて立ち上がりました。

森の中で、一人の行者が瞑想(めいそう)していました。行者の前に、二人は座りました。行者が瞑想を解きました。すでに、話はバーラドヴァージャから聞いているようでした。

行者は地面を這(は)うアリを指さし、こう言いました。「アリと人間を比べると、姿形の違いは明らかだ。ただし、人間と人間を比べたらどうだろう。私とそなたたち、そして、そなたたち同士。どこか違いがあるだろうか」。二人の少年は首を横に振りました。

「国の王も村の長も村人も、人間であることに変わりはない。だから、生まれや家柄などではなく、行いによって人間は評価されるべきだ、と私は思っているが、どうであろう」。その行いとはどのようなことか、ヴァーセッタが尋ねました。

「それは、弱い者を虐げないこと。人から蔑(さげす)まれても、じっと耐え、そして恨みや憎しみを持たないこと。人を欺かないこと。そうしたことかな」。そして、こう付け加えました。「二人とも、良い村長になりなさい」。

少年たちは、顔を見合わせました。このような話を今まで聞いたことがなかったからです。「行者さんに、またお目にかかりたいのですが」。行者がほほ笑みました。

「精舎(しょうじゃ)に来て、私の名前を言えばよい。ゴータマに会いに来たと」

(スッタニパータより)

※本シリーズでは、人名や地名は一般的に知られている表記を使用するため、パーリ語とサンスクリット語を併用しています

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