新・仏典物語――釈尊の弟子たち(32)

王の時代I 釈迦族の滅亡

全軍が布陣を終え、城の包囲は完了しました。小高い丘に置いた本陣で、ヴィドゥーダバ王は床几(しょうぎ)に腰を下ろし、原野を埋め尽くした軍勢を見つめていました。時折、馬のいななきと具足の触れ合う音が聞こえ、頭上ではコーサラ軍旗がはためいていました。

日は中天にかかり、陽光を反射した兵仗(ひょうじょう)が、さざ波のようにきらめきました。王は、上げた右手を振り下ろしました。軍が動き始めました。中央と両翼から、楯(たて)を押し立てた部隊が前進を開始したのです。矢頃に入ると部隊は停止し、一斉に矢を放ち始めました。射出された矢は、鋭いうなりを上げ、弧を描きながら城中に吸い込まれていきました。城内からの応射は、すぐに途絶えました。

城門に、丸太を抱えた兵らが突進していきました。攻撃は、城の四カ所に設けられた城門のうち、二カ所に集中させました。他の二つの門を守る兵を引き寄せるためです。ふんだんに矢を射掛けさせ、城門への突進を繰り返させました。城門を守る兵の数が膨れ上がり始めました。その時、城の反対側で怒号と喚声が上がりました。手薄になった城壁をよじ登った兵が城門を開け、そこから騎馬隊が突入したのでした。

城の至るところから、煙と炎が噴き上がりました。城塔で旗が振られ、戦闘はやみました。日は西に傾いていました。

完璧な勝利に、王は満足していました。国王であった父を追放し、即位したばかりの新しい王が、服従しない釈迦族にどのような態度で臨むのか、領内の豪族が注目していた戦いだったからです。もはや、カピラヴァットゥにとどまっている理由はありませんでした。王は幕僚に、陣払いを命じました。

戦闘があった翌日、壊滅した城に釈尊は足を踏み入れました。子供が一人、うずくまっていました。釈尊が声を掛けると、駆け寄ってきて、すがりついてきました。女の子でした。戦闘で家族を失ったのでしょう。

二人は城の外に出ると、手をつないで歩き出しました。ちっちゃな手でした。釈尊はつぶやきました。「怨(うら)みに、怨みで報いてはならない」。女の子は釈尊を見上げました。釈尊の声は、疾風に吹き消されました。

(有部毘奈耶雑事より)

※本シリーズでは、人名や地名は一般的に知られている表記を使用するため、パーリ語とサンスクリット語を併用しています