弱小チームから常勝軍団へ~佼成学園高校アメリカンフットボール部「ロータス」クリスマスボウル3連覇の軌跡~(7) 文・相沢光一(スポーツライター)
流動的な組織人事が優れたリーダーを生む
「幹部になった部員は誰もが一生懸命、その役割を果たそうとします。でも、そのうち幹部という立場を負担に感じ、辞退を申し出てくる者が出てきます。また、部員へ語り掛ける様子などを僕が見ていて、リーダー向きではないと感じる者もいる。その場合は他の部員と幹部を交代することになります」
幹部交代はよくあることであり、部員たちも納得しているそうだ。
「1年生には入部の際、学年ごとに幹部を置くことやその役割、そして交代があることも説明しています。幹部といっても特権的立場ではないし偉いわけでもありません。人には向き不向きがあり、リーダーを務めることよりもプレーに専念した方が生きる個性があることも理解してもらっています」
小林監督は交代することになった部員に対して、その理由を話すという。こうしたフォローもあって、この幹部システムは成り立っている。
ロータスでは1年生が入部した時から、リーダー育成を始める。そして、2年近くかけてリーダーとしての資質を見極め、新チームのスタート時に最適任の人材をキャプテンと副キャプテンにするのだ。
幹部になれば、自分のことだけでなくチームのことを考えるようになる。特に自分の学年は部員一人ひとりに目配りし、コミュニケーションを積極的にとることが必要だ。そして練習などで気になることがあれば頭に留め、練習後には自分の考えを言葉にして、同学年の部員たちに伝えなければならない。また、その後の幹部ミーティングでは「報連相」を求められる。そうした経験を積み重ねた者がキャプテン、副キャプテンになるのだ。
現在、ロータスのキャプテンを務めるのはワイドレシーバー(WR)の目黒歩偉君(背番号1)。168センチと小柄で、穏やかな性格だが、部員の誰からもリスペクトされているのが傍から見ていても分かる。チームの精神的支柱ともいえる頼れるキャプテンだ。小林監督がつくった人材育成システムからは、こうした優れたリーダーが生まれるのである。
ロータスの各学年に幹部4人を置く手法は、リーダー育成だけに止まらず、チームに多大なメリットをもたらしている。幹部交代があることで、部員の多くがリーダーを務めた経験をもつ。そのため、チーム全体のことを考えることが当たり前の空気がロータスには常に流れているのだ。幹部の大変さを経験した部員は、幹部の発言を素直に聞く。結果、誰かからいわれなくても、やるべきことはやるという“自律の精神”が次第に部に浸透していった。
「アメリカンフットボールはアクシデントが起こる可能性が高いスポーツでもあるので、練習には必ず立ち会うようにしています。でも、私がいなくても部員たちは緩むことなく、いつも通り練習しますよ」と小林監督は語る。
指導者のコントロールを必要としないチームに成長したという自負があるのだ。それが2016年のクリスマスボウル初制覇につながった。
スポーツでは一つの栄冠をきっかけに好循環が起きることがよくある。栄冠を手にしたことで、注目度が一気に高まる。注目されることで、指導や環境を含め、良いチームだという評判が広まる。その評判を聞き、ロータスでプレーしたいと思う人材が集まってくる。意識の高い部員が集まることで、部員の士気はさらに高まる。そして、必然的に部内の競争が激しくなり、レベルアップが進むという流れだ。
ロータスにもこうした好循環が生まれ、揺るぎない強さを見せるようになった。
プロフィル
あいざわ・こういち 1956年、埼玉県生まれ。スポーツライターとして野球、サッカーはもとより、マスコミに取り上げられる機会が少ないスポーツも地道に取材。著書にアメリカンフットボールのチームづくりを描いた『勝利者―一流主義が人を育てる勝つためのマネジメント』(アカリFCB万来舎)がある。
弱小チームから常勝軍団へ
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