弱小チームから常勝軍団へ~佼成学園高校アメリカンフットボール部「ロータス」クリスマスボウル3連覇の軌跡~(4) 文・相沢光一(スポーツライター)

アサイメント「Power」

現在の陣地を示すスクリメージライン上に置かれたボールを保持しているのがセンター(C)である。その後方に立つQBが、ボールを受け取る合図をした瞬間にプレーが始まる。すると、オフェンス陣は全員が線(画像内の黒線)に示した動きに出る。

ボールを受けたQBは右後方にバックし、最後方にいたRB1にボールを渡す。ボールキャリアになったRB1は、ディフェンスラインの右側を駆け抜ける。オフェンスの選手たちは相手ディフェンスの動きを封じ、RB1が走り抜けるギャップをつくるわけだ。

アサイメント「Power」の一例 ※クリックして拡大

一部説明すると、レフトガード(LG)はCとQBの間を通って右側にまわり込み、RB1にタックルしようとするB4をブロックする。反対側に控えるB3はタイトエンド(TE)がブロックし、RB1の進路を阻もうとするE2には、RB2が対応する。両翼にいるワイドレシーバー(WR)は、パスプレーと見せかけるおとり役に徹してコーナバック(CB)を引きつける。

このようにオフェンス全員が自分に与えられた役割を同時に果たし、RB1の走路を確保して前進を図るのだ。

しかし、ディフェンス側にもそれに対応するアサイメントがあり、簡単には突破を許してはくれない。オフェンスがどんなアサイメントを採用し、ディフェンスはそれにどう対応するか。選手のフィジカルやスキルとは別に、このような戦術面での攻防があることも、アメリカンフットボールの大きな魅力なのである。囲碁将棋にも通じるゲーム性があるのだ。

このアサイメントは、高校アメリカンフットボールでも通常数十種類が用意され(ここに、プレーを始める前のフォーメーションの変化も加わる)、チームはあらかじめ決められた動きを正確にとれるように練習を重ねる。

ロータスの1年生たちは部活を始めてすぐに、こうしたアメリカンフットボールの奥深さを知り、探究心をかき立てられる。小林監督が指導を始めた頃は、大学付属の強豪校に比べて部員は少なく、個々の運動能力でも見劣りしていたが、部員たちはその差を埋めるためにより多くのアサイメントを覚え、試合で使えるようにするための努力をしていたという。大会での好成績にはつながらなかったものの、その姿勢から当時の部員が心底アメリカンフットボールを好きになっていたことがうかがえる。

そのためか、ロータスではほとんど退部者が出ないという。

「監督になって3年目の時、就任時から一緒に戦ってきた3年生の主力メンバーが多く退部したことがありました。前の年に全国大会に出場した先輩たちが卒業し、チームの戦力が下がりました。そのチームを率いて結果を残すことに大きなプレッシャーを感じ、アメリカンフットボールが楽しくなくなってしまったようでした。モチベーションが下がり、私の懸命の説得にも応じてもらえませんでした」

その出来事があってから、小林監督は部員をサポートする方向性の指導に切り替える。目標は試合に勝つこと、でも部活動をする目的はあくまで人間教育だという考えをもつことに決めた。そのために、選手がアメリカンフットボールを追求し、プレーを楽しむことを何よりも優先した。環境を整え、部員の成長を根気よく見守ることにしたのだ。

こうした指導を続けてきたことで、部員は自主性をもって練習に臨むようになった。“やらされる練習”から“自ら進んでする練習”に変わったのだ。好きなことに打ち込み、日々成長する生徒の姿は校内外で評判になった。アメリカンフットボールに興味をもって入部してくる部員が増え、ロータス独自の風土が次第にチームに根づいていくのであった。

プロフィル

あいざわ・こういち 1956年、埼玉県生まれ。スポーツライターとして野球、サッカーはもとより、マスコミに取り上げられる機会が少ないスポーツも地道に取材。著書にアメリカンフットボールのチームづくりを描いた『勝利者―一流主義が人を育てる勝つためのマネジメント』(アカリFCB万来舎)がある。