「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(16) 文・黒古一夫(文芸評論家)
正しい歴史観を持って現代の世界を見渡す
授業では、大城立裕の『カクテル・パーティー』(1967年)はじめ、又吉栄喜の『豚の報い』(96年)、目取真俊の『水滴』(97年)などの芥川賞受賞作品の「読解」を中心に、沖縄の歴史やその独特の風土などについてたくさんの資料を使って講義した。その中で、学生たちが一番関心を持ったのは、多大な犠牲を強いられた沖縄戦とアメリカ占領下の沖縄、及び日本(ヤマト)と沖縄との関係にこだわり続けている目取真俊の作品であった。特に、心の奥底に刻印された沖縄戦に呪縛された沖縄人の現在を描いた芥川賞受賞作『水滴』と、沖縄の基層に本土(ヤマト)とは違った独特の文化があることを叙情豊かに描いた長編の『風音』(2004年)には、強い関心を示した。受講生たちは、これらの小説に現れている沖縄の「歴史」と、第二次世界大戦中にドイツ軍と熾烈(しれつ)な戦いを繰り広げたスロベニア・パルチザンの歴史をそこに重ねていたのである。
このスロベニアでの経験は、いかに確かな「歴史認識」を持つことが大切かを教えてくれるものであり、今でも私の胸に刻まれている。
プロフィル
くろこ・かずお 1945年、群馬県生まれ。法政大学大学院文学研究科博士課程修了後、筑波大学大学院教授を務める。現在、筑波大学名誉教授で、文芸作品の解説、論考、エッセー、書評の執筆を続ける。著書に『北村透谷論――天空への渇望』(冬樹社)、『原爆とことば――原民喜から林京子まで』(三一書房)、『作家はこのようにして生まれ、大きくなった――大江健三郎伝説』(河出書房新社)、『魂の救済を求めて――文学と宗教との共振』(佼成出版社)など多数。近著に『原発文学史・論――絶望的な「核(原発)」状況に抗して』(社会評論社)がある。
「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年