「時代」の声を伝えて――文学がとらえた80年(16) 文・黒古一夫(文芸評論家)

画・吉永 昌生

スロベニアと沖縄の意外な共通点

そんな短期・長期の外国での生活と訪問を経験するうちに、一つ気づかされたことがあった。それは、どこの国の学生(若者)も自国の歴史に精通していて、そのような自分たちの歴史認識を次世代に伝えていこうとする意思を持っているように思えたことであった。特に、受講している学生の要望でスロベニア・リュブリャナ大学の集中講義では「沖縄文学」を取り上げたのだが、その理由は日本で長期間被占領の経験を持つ沖縄で、どのような文学が生まれたのか、1945年から72年まで27年間アメリカ軍の施政権下(占領下)にあった沖縄と日本本土(ヤマト)とは現在どのような関係にあるのか、また沖縄には日本本土(ヤマト)とは異なった文化は存在するのか、というようなことを知りたい、という要望があったからだ。そして、その要望の根源に「スロベニアと沖縄は似た経験をして現在に及んでいる」という素朴な思いがあることも知った。

周知のように、人口206万人余りの小国スロベニアは、古くはローマ帝国に征服され、17世紀にはオスマントルコに、18世紀末にはナポレオンに、19世紀と第二次世界大戦中はドイツに支配されるという歴史を持っている。他国に占領されることの「痛み」や「苦しみ」を他のどの国よりも感じていたのである。換言すれば、スロベニアは第二次世界大戦中には軍靴で自国を踏みにじったナチス・ドイツに対して、学生たちの祖父母の多くが「パルチザン」として闘った歴史を持つ国だったのである。

明治時代に行われた「琉球処分」(1872~79年)以来、日本本土(ヤマト)から「差別」され続けた歴史を持ち、島民(県民)の半数以上が犠牲になった沖縄戦も経験し、そして戦後は27年間アメリカ軍の施政権下(占領下)にあった沖縄は、スロベニア人にとって身近な存在だったということである。

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