利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(82) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

画・国井 節

動乱の辰年

正月のお屠蘇(とそ)気分が、石川県で発生した震度7の能登半島地震で一気に覚めた。「明けましておめでとうございます」というあいさつに続いて、災害の心配が口にされるようになってしまった。私自身も、多くの被害を受けた七尾市などで対話型講義を行ったことがあり、出会った人々の安否を思い、暗然とした。

さらに翌日には、羽田空港で日本航空機と海上保安庁機が衝突した。次々と起こる災害や事故から、今年がただならぬ年であるという緊張感が広がった。考えてみれば、今年は辰(たつ)年、竜の年だ。中国の古書では、辰は「振」で「ふるう、ととのう」を意味し、「陽の気が動いて万物が振動し、草木もよく成長して形がととのう」と解釈されているという(『漢書 律暦志』)。そして、竜は古代中国の神獣で皇帝の象徴だから政治に関わりが深い。あの猛々(たけだけ)しい姿は、激動や大きな力を連想させる。私自身も年賀状に竜のイラストを用いたが、新年を寿(ことほ)いでいる賀状を見つつメディアから伝わる災禍とのコントラストに動乱を感じざるを得なかった。

地震自体に政治との直接の関係はない。しかし、災害対応は政治の役割である。熊本地震と比較しても、今回は発災直後の自衛隊派遣の規模は小さかった(2日目で2000人対1000人、5日目で2万4000人対5000人=東京新聞1月6日付)。そのせいで人命が失われたという疑いが濃く、秋田県・佐竹敬久知事(1月9日、連合秋田「新春賀詞交換会」)の発言に代表されるように、後手投入・逐次投入などの批判が渦巻いた。いまだに1万5000人を超える避難者全体の20%くらい(3163人)しかホテルや旅館などに二次避難していない(1月23日現在)。

また、北陸電力志賀原発では、林芳正官房長官から当初「異常はない」という説明がなされたが、次第に外部電源の一部喪失、変圧器からの油漏れ、核燃料プールの水漏れというような被害が生じていたことが分かった。この地域に活断層が存在するという有識者会合の指摘を否定して原子力規制委員会の審査が行われたが、地盤の隆起など想定外の事態が起こったわけだから、当然、原発稼働は見直されなければならない。最大の被害が出た珠洲市では、原発の建設計画があり、その候補地の一つ(高屋町)は今回の震源と隣接している。住民の反対運動でこの計画は中止となったから事なきを得たものの、もし稼働していたら被害は想像を絶するものとなっただろう。この点を私たちは正視しなければならない。にもかかわらず、政権からは一切、この点に関する反省や路線変更の発言が聞かれない。

政治腐敗と改革偽装

前回の連載で焦点を当てた自民党裏金問題では、安倍派の池田佳隆衆院議員とその政策秘書が逮捕された(1月7日)。さらに、安倍派・二階派・岸田派の会計責任者や元会計責任者、安倍派の大野泰正参院議員・谷川弥一衆院議員は起訴された。しかし、安倍派5人衆などの幹部に対しては、事情聴取(任意)が行われたものの、会計責任者との共謀を認められないという理由によって、政治資金規正法による立件は見送られた(1月19日)。政治資金規正法が不十分だという指摘もあって共謀の立証は困難なのだが、それでもこの関門を突破することを、検察には多くの国民が期待していた。そこで、この結果に失望した人は数多く、各種メディアにおいて激しい批判が渦巻いている。

他方で自民党は政治刷新本部を立ち上げたが、最高顧問が麻生太郎副総裁、菅義偉前総理、幹事長が木原誠二氏であり、安倍派から10人が加わっていて、しかも9人に裏金疑惑がある。「詐欺師が詐欺撲滅キャンペーンをやっているって言われても反論できないよ」(自民党議員=朝日新聞1月16日付)という言葉に頷(うなず)く人も少なくないだろう。派閥解消や政治資金規正法改正などにより政治腐敗を防止することが課題なのに、今までの権力中枢者たちが「改革」の責任者になっても、まったく説得力がない。これは、「改革偽装」本部のような印象を与えて、政治への失望を深めてしまうのではないだろうか。

かつては田中角栄元首相が金脈問題で失脚した後で、三木武夫政権が成立した。少数派閥の長だった三木氏は、「クリーン三木」と呼ばれたように清新の気があり、一定程度政治に対する信頼を回復させた。深刻な政治腐敗問題が起こると改革を掲げる政権が成立し、この繰り返しによって自民党は権力を長期間維持してきた。少なくとも、現政権にはこのダイナミズムは見えない。これは、自民党の自浄能力の枯渇を表しており、自民党全体が腐敗した政党という印象を持たれてしまうだろう。

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