利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(87) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

画・国井 節

政治的腐敗と政治的疑惑

自民党の提出した改正政治資金規正法が成立した(6月19日)。政策活動費の使途公開を10年後にするなどさまざまな点で不十分な法案であり、満足のいく政治改革とは言えず、政治的浄化が達成されるわけもない。

さらに、政治的に重要なのは、東京都知事選だ。自民党に実質的には支持される小池百合子現知事と、立憲民主党の蓮舫参院議員という与野党対決の構図が固まった。前回に書いたように、小池氏の率いる都民ファーストの会は、日本維新の会と同じく、日本におけるポピュリズムの代表的政党だ。「○○ファースト」という概念を使う右派ポピュリズムは一国主義や排外主義になることが多いのに対し、蓮舫氏は台湾系(日本国籍)の方だから、一国主義と協調・多文化主義との相違を象徴しているとも言えよう。

小池氏には、エジプトのカイロ大学卒業に関する学歴詐称疑惑が再燃している。ポピュリズムは、真実を無視して聞こえの良いことを言い、大衆からの喝采を狙って支持を得ようとすることが多いから、この疑惑はポピュリストの特徴に対応している。首都・東京の選挙結果は、今後の日本政治にも大きなインパクトを持つだろう。

経済政策におけるごまかしの結果

ところで、そもそも政治的腐敗や政治的虚偽が望ましくないのは、なぜだろうか。有権者との信頼関係を揺るがすからであり、法律違反だからでもある。一方で、中には「少しくらい腐敗していたり虚偽を言ったりしても、良い政治を行えば政治家としては評価できる」という意見もある。本当にそうだろうか。

いよいよ再び1ドルが160円以上になり、円安がさらに進行した(6月27日)。前回に書いたように、円安は直接にはアベノミクスという超金融緩和政策の結果だ。簡単に言えば、日銀の政策によってお金を市場にたくさん供給することにより、一見景気が良いように見せかけ、本当の経済の実態を見えなくさせていたのである。これは、金融政策による経済的なごまかしのようなものだ。このように噓(うそ)やごまかしは、短期的には真実を覆い隠せるように見えても、時間が経つと深刻な結果が現れてくる。

しかし、経済政策の議論は難しいところがあるから、この例では分かりにくいかもしれない。それなら、個々人について見てみよう。

幸福と健康・収入・売り上げ

これまでの寄稿で既述したように、ポジティブ心理学では、ポジティブな感情をはじめとする幸福感、ウェルビーイングと健康や学業・仕事の間に関係があることを実証している。私たちの調査でも、このことが確認された。例えば、ウェルビーイングの高い人の方が健康であり、収入が高い傾向がある。また、ある食品企業の調査では、従業員の平均的なウェルビーイングの高い店舗の方が、売り上げの前年度比伸び率が高い傾向があった。また、サンプル数が少なくて統計的には確実とは言えないが、売り上げ伸び率の良い店の店長の方が、売り上げ伸び率の悪い店の店長よりも、ウェルビーイングは高かった。

もっとも、だからといって、幸福感の高さが健康や売上増をもたらしたとは、すぐには言えない。健康や売上増が幸福感を高めることがあり得るからだ。学問的には、この双方の因果関係のうち、どちらが強いかを検討する必要があり、私たちの研究でもそのための検討をしている。

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