利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(81) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

画・国井 節

現代版「平家物語」における「鐘の音」

安倍晋三元首相の国葬の際に、この連載(第67回)で『平家物語』の「祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹(さらそうじゅ)の花の色、盛者必衰(じょうしゃひっすい)の理(ことわり)をあらはす」という有名な文句を引用した。安倍政治の「必衰」を予感したからだが、それから1年3カ月が経って、日本政治の「盛者必衰」が現実化する時が遂(つい)に到来しつつあるようだ。安倍政治に批判的なキャスターらが降板していったテレビや新聞で、現代版『平家物語』の末路を予感させるニュースが、「鐘の音」のように連日鳴り響いている。

炎上した自民党最大派閥

自民党・安倍派の政治資金パーティーをめぐって巨大な疑惑が浮上した。安倍派は、パーティー券の販売ノルマを超えた分の資金を所属議員に還流させて収支報告書に記載せず、議員側も政治団体の収入に記載しなかったというものだ。つまり裏金としていたわけで、政治資金規正法違反罪となる。その裏金の総額は、時効にかからない5年間で億単位に上る疑いがある。

安倍派の幹部はいずれも疑いを持たれており、岸田文雄首相は、松野博一官房長官・西村康稔経済産業相など安倍派の4閣僚を事実上更迭し、安倍派閣僚はいなくなった。萩生田光一党政調会長・高木毅党国会対策委員長・世耕弘成党参院幹事長も辞表を提出して、安倍派5人衆の全員が要職から外れることになった。安倍派は副大臣5人とともに、財務大臣政務官、内閣総理大臣補佐官、防衛大臣補佐官も辞任して、12月14日には計12人が役を退いた。11月10日には、衆院議長を辞任した細田博之氏が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係などの疑惑を説明せずに死去しており、その約1カ月後に、同じく党最大派閥の幹部らが軒並み政権要職から一掃されることになる。

1988年に起きたリクルート事件以来の疑惑と評され、深刻さは甚大である。安倍派は大幅衰退を免れ得ず、解体の可能性すらささやかれるほどだ。それどころか、安倍派とともに二階派の事務所にも強制捜査がなされる(12月19日)など、他の派閥にも裏金問題が指摘されており、自民党全体の危機と指摘する声も大きくなってきた。

この問題は、安倍政権自体の金銭関係の疑惑(森友学園、加計学園、桜を見る会)と通底している。いずれも、公私混同や不法な金銭の流れがあり、権力を背景に法規を蔑(ないがし)ろにしている。派閥などでは、派閥領袖(りょうしゅう)と政治家、政治家と支持者との間に親分-子分関係(クライエンテリズム)があり、子分側が金銭や支持を提供する代わりに、親分側が便宜を計らう。これは、しばしば近代国家の原理に反して、贈収賄などの不法な金銭の流れや権力行使につながる。この問題は、私の初めの研究テーマであり、戦後日本政治の悪弊だった。安倍政権以降、長期政権に伴って、これが肥大化して前近代的な強権国家(学問的に言えば、競争的権威主義)のようになってしまっていたのである。

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