心の悠遠――現代社会と瞑想(7) 写真・文 松原正樹(臨済宗妙心寺派佛母寺住職)

異文化理解による次代の平和

四つ目は「皆違っていい。皆がそれぞれのメッセンジャー」という言葉。研修の7日目に、東京の御茶ノ水にある池坊東京会館で生け花の研修を受けさせて頂いた時、加藤みどり先生よりこの言葉を頂戴(ちょうだい)した。私は、初めに加藤先生が作られた見本の立花をまねして、自分たちも創作していくのだろうと思っていた。ところが学生たちは、先生の見本をまねすることには一切の関心を示さず、完全に自分独自の生け花を創作したのだ。全員が、である。中には、与えられた花材の何種かを使わない者もいた。

先生によると、これが日本人の生徒であると、見本をまねすることに精いっぱいになり、まねすることがゴールになって必然と作品から作者のメッセージが失われてしまうという。「皆違っていい。皆がそれぞれのメッセンジャー」という先生の言葉は、生け花だけでなく、グローバル社会の中でさまざまな人種、異なった文化的バックグラウンドの人たちと共存していくわれわれが、常に持っておきたい心の杖(つえ)としての言葉である。

最後は「もてなし」の心だ。円覚寺山内の伝宗庵でお茶の研修を受けさせて頂いた時、学生たちを坐禅、お茶席、質疑応答の3グループに分け、時間内に全員が全てを体験できるようにローテーションを組んだ。お茶席の設(しつら)え、坐禅の指導、質問に答えるその真剣さは、どれをとっても学生たちの心を打つ、「もてなし」の心であふれていた。どのような花で、どのような掛け軸で、どのような抹茶茶わんで、どのようなお菓子で客人をもてなすか。坐禅の初級者にもかかわらず、どこまでも親切に教えて頂いた。どんな質問にも、自分の体験と合わせてよく考え、言葉を一つ一つ選びながら答えて頂いた。学生たちが口をそろえて言った、「私たちを家族のようにしてくれてありがとう」という表現に、全てが表れていると思う。このもてなしも、相手のことをどこまでも思ってのことである。そこには一期一会や仏性をはじめとする上記の五つ、全てが含まれている。このもてなしを通じて、私は日本文化とジョージア州立大学の学生たちとの「つながりができた」と確信したのである。

単にグローバル化が進むだけでなく、さまざまな面でこれからより一層複雑になっていく世界が、われわれを待っている。異なった伝統や文化、歴史、思想、文学、芸術を学び合うことを通して文化的、知的な理解を促進する――異文化相互の理解を深める場を提供する宗教者の活動の精神は非常に大切なものと考えている。現在、私は自らの置かれた立場で、日本とアメリカの懸け橋役として、仏教の思想と実践を通して精力的に取り組んでいる。異文化相互理解という「ソフトパワー」を促進し続けることにより、次代を担う世代主導の平和への展望を見据えていきたい。

プロフィル

まつばら・まさき 1973年、東京都生まれ。『般若心経入門』(祥伝社黄金文庫)の著者で名僧の松原泰道師を祖父に、松原哲明師を父に持つ。現在、米・コーネル大学東アジア研究所研究員、ブラウン大学瞑想学研究員を務める。千葉・富津市の臨済宗妙心寺派佛母寺住職。米国と日本を行き来しながら、国内外への仏教伝道活動を広く実施している。著書に『心配事がスッと消える禅の習慣』(アスコム)。2019年9月に『感情を洗いながす禅の言葉』(三笠書房)を発刊。