おもかげを探して どんど晴れ(22) 文・画 笹原留似子(おもかげ復元師)

画・笹原 留似子

誰でも起こしやすい心を問う民話――お地蔵さまの本心

あるところに信仰心の篤(あつ)いおじいさんがいました。おじいさんは、畑仕事に行く途中に川辺に立つお地蔵さまに、毎日、朝晩に手を合わせていました。

その日はとても暑い日で、少し早めに畑仕事を終え、帰路につくことにしました。川辺の道を歩き、いつも通りお地蔵さまに手を合わせてから帰ろうとした時でした。お地蔵さまがいなくなっているではありませんか。一体何が起きたのかが分からず、おじいさんは辺りを見渡しました。すると、どうでしょう。なんと、川の中にいる5人の子どもたちが、お地蔵さまを川の中へ入れていたのでした。おじいさんは怒って子どもたちに言いました。

「おまえたち、なんて罰当たりなことをしているのだ! 今すぐ、お地蔵さまを元の位置に戻しなさい!」。子どもたちは、なぜ自分たちが怒られているのか分からずに言いました。

「今日はとても暑いから、きっとお地蔵さまも暑いに違いないと思い、一緒に水遊びをしていただけなのに!」。子どもたちの言葉を聞いたおじいさんはさらに怒鳴り、今すぐお地蔵さまを元の位置に戻すように再度言いました。

子どもたちは5人で、おじいさんに言われた通り、お地蔵さまを元の位置に戻しました。

おじいさんは、「やれやれ。これでやっといつも通りお地蔵さまに手を合わすことができるわい」と言い、お地蔵さまの前に立った瞬間、体が動かなくなってしまいました。恐る恐るおじいさんは、お地蔵さまの顔を見ました。なんと恐ろしいことでしょう……。お地蔵さまの顔は、憤怒の表情をしていたのです。お地蔵さまは、おじいさんに言いました。

「じいさん、よく聞きなさい。私は怒っているのです。なぜなら、私は優しい気持ちを持った子どもたちと楽しく遊んでいたのにもかかわらず、じいさんが地蔵はそこに立っていなければならないという勝手な思い込みで子どもたちを怒ったこと、そしてじいさん、あなたがいつも通りに行動できないというイライラを子どもたちにぶつけたのです。それはじいさんの勝手な思い込みと押し付けなだけで、信仰ではないのです」

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