心の悠遠――現代社会と瞑想(1) 写真・文 松原正樹(臨済宗妙心寺派佛母寺住職)

時代に対応する禅の探究

一方に偏らず、「内から」と「外から」という両方のレンズを状況に応じてバランスよく使い分けることが大切で、これこそが他宗教との対話の出発点になり、文化の相互理解を促進させる鍵なのだと確信した。この気づきが2000年から09年までのコーネル大学での仏教研究につながった。

私は、00年にコーネル大学で日本宗教を専門とするジェーンマリー・ロー教授と出会い、宗教学を学び始めた。ロー教授は、ミルチャ・エリアーデの最後の弟子で、最期を看取(みと)った方である。学びを通して分かったことは、「禅は、もはやアジアや日本独特のものではない」ということだ。

禅を取り巻く世界や社会がグローバルになればなるほど、禅もよりグローバルな産物へと変化していかなければならない。存在する全てのものは、「ing」型の現在進行形にある。現在進行形であるがゆえ、「変化への対応と維持」ということが、伝統が伝統たる原動力や推進力の中枢になり、その本質になる。

「伝統」という言葉は英語で「TRADITION」であるが、「伝承」する、つまり、「維持するために働き掛ける」という意味がある。常に「伝統」には、時代の要求に対する順応性が求められているということだ。

この「伝統」に対する理解を常にテーマに持ちながら、私は現在、ロー教授と共に、毎年6月に禅を中心とした「日本仏教実践講座」を開催している。毎年20人ほどのコーネル大学の学生が約2週間、鎌倉にある円覚寺と建長寺、そして千葉県のマザー牧場に隣接する佛母寺で宿泊しながら日本仏教文化を学んでいる。昨年で3回目を迎え、今年からは春にも短期で講座を開催した。

さらに、昨年2月からはこれとは逆で、日本人の若手仏教僧を対象に、コーネル大学で約2週間の訪問研修を行うシャトル交流も始めた。この研修は、日米異文化間の相互理解促進活動の一環となっている。

プロフィル

まつばら・まさき 1973年、東京都生まれ。『般若心経入門』(祥伝社黄金文庫)の著者で名僧の松原泰道師を祖父に、松原哲明師を父に持つ。現在、米・コーネル大学東アジア研究所研究員、ブラウン大学瞑想学研究員を務める。千葉・富津市の臨済宗妙心寺派佛母寺住職。米国と日本を行き来しながら、国内外への仏教伝道活動を広く実施している。著書に『心配事がスッと消える禅の習慣』(アスコム)。

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