『心の悠遠――現代社会と瞑想』(1) 写真・文 松原正樹(臨済宗妙心寺派佛母寺住職)

自分の内側にある清浄心を信じ、「本来の自己」と出会い、目覚めることを目的とする坐禅。禅の精神は欧米を中心に世界で注目されてきた(写真=筆者提供)

アメリカの宗教学に魅せられ渡米

2017年12月11日(月)早朝、米・ニューヨーク市マンハッタンの主要バスターミナル、ポートオーソリティー付近のタイムズスクエアにつながる地下通路で爆発があった。体に手製のパイプ爆弾を巻き付けていた容疑者の男は拘束されたが、容疑者のほかに少なくとも3人が負傷したと伝えられている。ポートオーソリティーは世界で最も利用者の多いバスターミナルで、一日約22万人もの利用者があるマンハッタンの交通の要の一つである。

私は、ちょうどその朝、日本からニューヨーク市のジョン・F・ケネディ空港に降り立ち、ニューヨーク州のイサカ市に向かうところだった。翌日から3泊4日で行われるコーネル大学での異宗教間対話会議で坐禅会を催し、禅文化について講義をするためだ。私は、この爆弾事件に震撼(しんかん)するとともに、これからの新たな時代における禅の役割について強く考えさせられた。

00年に渡米し、イサカ市、カリフォルニア州のバークレー市、そして、オークランド市と、アメリカ有数の独特な文化を持つ都市で学び、現在はニューヨーク市に在住している。アメリカに来ることになったきっかけは、埼玉県新座市野火止の臨済宗妙心寺派平林寺僧堂で修行中、ルーマニア出身の宗教学者兼小説家のミルチャ・エリアーデの『聖と俗』を夜中にトイレで読み、アメリカで宗教学を学びたいと思うようになったからだ。

修行中、僧堂内で午後10時以降に電気が使えるのは、トイレの個室のみだった。実は、アメリカ留学に必要なTOEFLの勉強もここで午前0時までして、午前3時の開静(かいじょう=起床のこと)を迎えていたのだが、全く苦とは思わなかった。僧堂生活の中では、この2時間が唯一、自分の好きなことが自分の意思で自由にできる、自分の時間だったので、むしろ私にとっては至福の時だったのだ。

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