寄稿(連載)

利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(75) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

公私混同――政治家? 政治屋?

先月(第74回)に続いて、ウォルター・リップマンに始まる「公共哲学」という視点から、現実政治を見てみよう。リップマンは、本来の「政治家(ステイツマン)」は公共的利益の実現を追求すべきであって、「政治屋(ポリティシャン)」のように私益を追求すべきではない、と主張した。この二つを概念として明確に区別したわけだ。さて、それでは今の日本の政治家は、どちらに相当するだろうか。

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忘れられた日本人――フィリピン残留日本人二世(11) 写真・文 猪俣典弘

戦後78年。命の尊さ、平和の大切さを伝えていく使命

防衛費の倍増が招く事態を憂慮

昨今、日本は防衛力の強化を加速させています。政府は昨年、2027年までに防衛費をGDP(国内総生産)の約2%、5年間で総額43兆円ほどにすることを決定。これは、年間軍事費を約10兆円に押し上げ、米国、中国に次ぐ世界第3位の規模です。岸田文雄首相は、毎年4兆円(300億ドル)の追加予算が必要と述べ、その25%を賄うために増税を提案しました。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(74) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

感染放任主義と自ら律して身を守る必要性

暖かい季節になってきた。ゴールデンウイークの歓楽気分を経て、「コロナは終わった」というように、あたかも問題が収束したような風潮が漂っている。感染症などの専門家たちが警告しているように、政治的思惑で5類になったからといって、コロナ感染そのものがなくなったわけではなく、浮かれるのは禁物だ。検査や治療も自費で賄う必要性が増大し、感染者や濃厚接触者の外出禁止も大幅に緩和されたから、コロナ感染者がいわば野放しになったようなものだ。このため感染リスクは増大し、日々の感染状況の公表もなくなってしまったのだから、人々が気づかないうちに蔓延(まんえん)してしまう危険がある。事実上は、統計隠蔽(いんぺい)と同じような効果があるわけだ。

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忘れられた日本人――フィリピン残留日本人二世(10) 写真・文 猪俣典弘

国際機関、政府、NPOが連携――「誰一人取り残さない」救済の実現を

2021年4月、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐フィリピン事務所が残留日本人二世(残留二世)に関する報告書を作成しました。この中で、フィリピンに残留した日本人を「無国籍のリスクにある人々」と認め、国家が緊急に解決するべき人道問題として、日本とフィリピンの二国間協議での解決を提言。一年をかけて両国の法律に照らし、残留二世の法的な立場や問題点を整理した報告書の発表は、彼らの存在を国際社会に広く知らせるものになりました。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(73) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

メディアの生み出す「世論」(公共的意見)の危険性

今はコロナ禍に加えて、ロシアのウクライナ侵攻による戦争が続いており、日本でも軍拡や北朝鮮のミサイルへの警報問題が起きている。世界的な戦争へと戦火が拡大していく危険性も決して軽視することはできない。このような文明的な危機の重畳(ちょうじょう)において、第二次世界大戦からの洞察を振り返ってほしい――そのような願いをもって、私はウォルター・リップマンの『公共哲学』(1955年)という古典を再訳して、刊行した(『リップマン 公共哲学』2023年、勁草書房)。

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忘れられた日本人――フィリピン残留日本人二世(9) 写真・文 猪俣典弘

離別した家族に会いたい――終わらない戦後

「親族捜し」はフィリピン残留日本人二世たちに共通する願い

戦争によって家族が二つの祖国に引き裂かれ、親やきょうだいと死別や生き別れになったフィリピン残留日本人二世たち。その数は、戦中の幼少時死亡者を含めると4000人を超えます(フィリピン日系人リーガルサポートセンター=PNLSC=調査)。

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現代を見つめて(82)最終回 変わらないものがある 文・石井光太(作家)

変わらないものがある

新型コロナウイルスの感染拡大から三年目にして、国はマスク着用ルールの緩和などを決めた。これから徐々にコロナ禍後のライフスタイルが形成されていくことになる。

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忘れられた日本人――フィリピン残留日本人二世(8) 写真・文 猪俣典弘

忘れられた120年前の記憶

フィリピンに職を求めた日本人移民

連載1回目で記したように、約120年前の日本は経済的に疲弊し、急激な人口増加もあり生活に困窮する人々が増えました。貧しい農村の次男や三男たちが新天地で一旗揚げようと、海外への出稼ぎブームが沸き起こりました。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(72) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

「ポジティブ」な感情と政治

コロナを感染法上の5類にすると政権が決め、第8波が収まったので、あたかも感染症問題は収束したように社会は動き始めている。この大きな狙いは、4月の統一地方選挙を前にして、感染症問題を乗り越えたという明るい雰囲気をつくり、支持率が低迷した政権を浮揚させようということかもしれない。

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共生へ――現代に伝える神道のこころ(25)最終回 写真・文 藤本頼生(國學院大學神道文化学部教授)

神社に参拝し手を合わせ願う心が、鳥居をくぐる如く神々へ届くよう

あくまで小生の勝手な所感だが、日本人はどうも「くぐる」ことが好きなようだ。民俗的な風習か、はたまた迷信的なものと考えるか否かはさておき、奈良県の東大寺大仏殿の柱の穴などは、観光客や修学旅行の児童・生徒が訪れる有名な“くぐりスポット”と言える。同じく観光客で賑(にぎ)わう京都府の伏見稲荷大社の境内にある「千本鳥居」も、近年では著名なくぐりスポットとなっている。先日も同社を訪れた際には、千本鳥居の中をくぐり抜けながら、SNSにアップロードするであろう“映え写真”をスマートフォンで撮影する若い着物姿の女性や、親子連れで溢(あふ)れていたのには驚いた次第である。

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