弱小チームから常勝軍団へ~佼成学園高校アメリカンフットボール部「ロータス」クリスマスボウル3連覇の軌跡~(10)最終回 文・相沢光一(スポーツライター)

蓮にあだ花なし

連載の最後に、改めてロータスと小林監督の指導について個人的に感じたことを述べておきたい。

ロータスは2016年から3年連続で高校日本一になった。4連覇こそ叶わなかったものの、4年連続でクリスマスボウルに出場を果たし、トップレベルの実力を示した。そのロータスをつくり上げたのが小林監督であり、名指導者として評価されている。

確かに、さまざまな制約がある進学校で強いチームをつくるのは難しい。そのハンディを乗り越えるために知恵をしぼり、合理的な練習法によって強化を成し遂げる手腕は見事というしかない。だが、それ以上に驚かされるのは、競技力の向上だけでなく、部員たちを人間的に成長させることもしっかり行っていることだ。

もちろんどの高校の部活でも、人間教育は重視している。部には組織としての約束事があり、部員はそれを守ることによって人間的に成長する。挨拶をはじめとする礼儀を知る、秩序を守る、仲間と力を合わせる重要性を知る、といったことが学べるわけだ。

だが、ロータスでは、こうしたことはできて当たり前のこと。小林監督はそこから一歩踏み込んで、社会に出て生きるスキルや、人間性を部員たちに部活を通して自然に身につられるようにしているのだ。とくに筆者の印象に残ったのが、次に挙げる3点だ。

第一が自主性である。

小林監督は、新入部員にまずプレーする楽しさやゲームとしての面白さを伝え、アメリカンフットボールを好きになってもらうことに心をくだいている。好きになれば、もっと上手く、もっと強くなりたいと思うようになり、黙っていても向上のための努力をするようになる。「させられる練習」ではなく「自ら進んでする練習」になるのだ。意識がこのレベルになれば練習も無駄なく合理的に行われるし、用具の準備や片づけ、清掃なども率先してするようになる。小林監督の思惑通り、ロータスの部員は全員この域に達しているのだ。

「指示待ち世代」という言葉がある。誰かに指示されなければ動けない若者が多いことを指すが、そんな中、自分で考え、自主的に動くことが当たり前になっている部員たちは社会に出ても高い評価を受けるに違いない。

第二はコミュニケーション能力だ。

ロータスにはスキルを先輩が後輩に教える文化がある。また、リーダー育成のため1年時から幹部4人(交代あり)を選出し、同学年の部員の統率を任せている。スキルを教える時も部員たちをまとめる時も、自分の考えを言葉にして分かりやすく伝える必要があるわけだ。つまり日々、コミュニケーションをとる練習をしているようなもので、3年になれば誰もが話し上手、聞き上手になる。

この能力は当然、社会人になってから役立つ。仕事はもちろん良好な人間関係を築くためにも、会話は欠かせないもので、高校時代に身につけておくことは相当なアドバンテージになるだろう。

第三は謙虚な姿勢だ。

「フットボールが上手いというだけでは、社会で通用する人間にはなれない」

小林監督は部員たちによく、こう語るという。この発言の真意はこうだ。

ロータスの選手たちはいまや日本一を争う強豪だ。周囲は少なからず注目するし、その眼差しから、時に得意げになってしまう選手もいる。が、勘違いして傲慢になってはいけない。もちろん部員一人ひとりが努力を重ね、チームが栄光を勝ち取ったことには価値があるし、この成功体験は自信になる。しかし、それに頼るのではなく、常に謙虚な姿勢で社会と向き合い、自分を磨き続けてほしいと言いたいのだ。

謙虚であれ、と部員を指導しているのは小林監督だけではない。榎並紳吉学校長がそうだ。一昨年末、ロータスが立命館宇治を大逆転で下し、3連覇を達成した試合の直後、榎並学校長はこう語ったそうだ。

「君たちは最後まで諦めることなく戦いました。この貴重な体験ができたのは、立命館宇治高という好チームがいたからです。すばらしい学びの機会を与えてくれた彼らに感謝しましょう」

勝者の裏には多くの敗者が存在している。スポーツの世界だけでなく、競争のある社会でも同じことがいえる。このようにロータスの部員たちは、部活を通して高い競技力だけでなく、社会に出ても役立つ能力や価値観、人間性を身につけるのだ。ロータスが掲げるスローガンは「素直・謙虚・感謝」だが、この言葉通りの人間教育、人材育成をしていることが分かる。

そして最後に触れたいのが「ロータス」というチームの愛称についてだ。

ロータスとは蓮のことだ。アメリカンフットボールチームらしくない穏やかなこのチーム名は、蓮のもつ強い生命力に由来する。蓮は泥水の中でもたくましく育ち、一輪とて咲き損じがない花といわれているからだ。

ロータスはその特性を体現しているチームといえる。制約が多い進学校で強いチームをつくるのは大変だ。しかし、その環境下でも部員たちは小林監督の指導によってたくましく成長する。部内ではフェアな競争が行われ、部員たちはみな自らを高める努力を重ねる。そうした日々から、多くのものを得るわけだ。だから1人として咲き損じる者はいない。

昨年のクリスマスボウルのように、勝負事は思い通りにはならないものだ。が、小林監督の指導と根づいた文化が続く限り、真に強いチームであり続けるに違いない。

(了)

プロフィル

あいざわ・こういち 1956年、埼玉県生まれ。スポーツライターとして野球、サッカーはもとより、マスコミに取り上げられる機会が少ないスポーツも地道に取材。著書にアメリカンフットボールのチームづくりを描いた『勝利者―一流主義が人を育てる勝つためのマネジメント』(アカリFCB万来舎)がある。