弱小チームから常勝軍団へ~佼成学園高校アメリカンフットボール部「ロータス」クリスマスボウル3連覇の軌跡~(6) 文・相沢光一(スポーツライター)

スローガンである “連覇”と書かれた弾幕は、練習時にも張り出される

勝ちきれないのに掲げた“連覇”の威力

それまでロータスは、春の関東大会での優勝経験はあるものの、肝心の秋の関東大会では一度も優勝していない。連覇とは大会を制覇した者が目指す目標であり、勝ちきれていなかった当時のロータスにとってはふさわしくなかった。それでもあえてスローガンにしたのは、関コーチの大学時代の経験からだった。

関コーチがそのいきさつを語ってくれた。

「1988年、私は日本大学フェニックスのキャプテンを務めました。その前年の日大は能力の高い選手がそろっていて、大学日本一はもちろんライスボウルにも勝てると思われていたのですが、甲子園ボウルで京都大学に負けてしまった。その後の代のキャプテンを私が任されたのです」

有力選手がゴソッと抜けたチームであり、冷静に考えて勝負にならない布陣だったという。とはいえ、日大は東の雄。そのプライドに賭けてもチーム力を上げなければならない。

「そのためには下級生の力に頼るしかない。3年生と2年生、そして1年生も含めて能力のある選手を引き上げ、戦力になってもらおうと考えたのです。そうはいっても自分たちの代が勝負を諦めるわけにはいかないですし、全体の底上げをする意味も込めて“下級生から上級生まで全員で連覇を目指す”ことをチームの目標にしたんです」

当時の日大の監督は故・篠竹幹夫氏。篠竹監督は44年間の監督在任中、日大を17回学生王座に導いた名将だ。また、周囲を圧倒するようなカリスマ性があった。そんな篠竹監督が、学生の意見など到底聞いてくれないのではないか。そう聞くと、関コーチは笑ってこう答えた。

「それは外部の方々が作ったイメージですよ。実際の篠竹監督は、学生の自主性を重んじる指導者で、私の強化に対する考えも受け入れてくれました。確かに、フェニックスには体育会体質はありました。でも、連覇という言葉で学年を超えて強くなろうという意識が生まれ、下級生は期待以上の成長をしてくれた。我々4年生もそれに刺激を受けて頑張り、甲子園ボウルだけでなく、ライスボウルも制覇することができたのです」

なお、この時の2年生に小林監督がいた。そしてその後の2シーズンも、日大は日本一になって3連覇を達成。関コーチが掲げたキーワード「連覇」は効果を発揮したのだ。

「戦力的に勝負にならないと思っていた当時の日大でさえ、チーム全体で連覇を目指すことで勝利できた。佼成学園は関東を制する力は十分あると見ていたので、チーム全体で連覇を目指せば勝利を阻む壁を突き破れると思い、小林監督に提案したのです」

そして「連覇」をスローガンにした2016年、ロータスは秋の関東大会で初の優勝を飾り、初出場を果たしたクリスマスボウルで関西学院高等学校を下して日本一の栄冠を勝ち取った。

連覇というスローガンがロータスの部員たちにどう作用したのか。それを聞くと、発案者の関コーチも、受け入れた小林監督も「言葉では説明できない」と笑う。

そこで取材者の立場で効果を考えてみた。

小林監督の指導方針通り、ロータスの部員たちはアメリカンフットボールを楽しむことを優先し、勝利することに過度に執着しないできた。が、関東大会の決勝ともなれば、どうしても勝利を強く意識しすぎてしまう。それが平常心を失わせ、いつもはできていたプレーをできなくさせたのではないだろうか。

その状況下で、大学、社会人と高いレベルでプレーしていた小林監督や関コーチが、大真面目に「連覇」を言い出したわけだ。それが、“自分たちはすでに関東を制する実力がある”という自信につながり、「初優勝」に対する過剰な意識を取り除いたのではないだろうか。 

また、関コーチの日大キャプテン時代と同様、このキーワードは下級生部員の意識改革につながったはずだ。ロータスには、学年の枠を感じさせないフラットさがある一方、厳しい実力主義のチームという側面もある。下級生には、どこか上級生に対する遠慮もあったのではないか。だが、連覇という言葉によって自分たちが強さを引き継ぐ存在だという意識が生まれると、チームとして強くなるための競争が激しくなり、レベルアップにつながったのだろう。

そしてロータスは、2017年、2018年のクリスマスボウルも優勝し、初出場から3連覇の偉業を果たした。そればかりか、公式試合では51試合を勝ち続け(2019年11月11日現在)、負け知らずの記録を更新している。文字通り、「連覇」がロータスを支えるキーワードになったのだ。

プロフィル

あいざわ・こういち 1956年、埼玉県生まれ。スポーツライターとして野球、サッカーはもとより、マスコミに取り上げられる機会が少ないスポーツも地道に取材。著書にアメリカンフットボールのチームづくりを描いた『勝利者―一流主義が人を育てる勝つためのマネジメント』(アカリFCB万来舎)がある。