弱小チームから常勝軍団へ~佼成学園高校アメリカンフットボール部「ロータス」クリスマスボウル3連覇の軌跡~(5) 文・相沢光一(スポーツライター)
余力を残す練習メニュー
スパルタ練習についても同様で「この練習で、なぜ強くなれるの」と思うほどロータスの練習時間は少ない。一週間のうち、グラウンドで実戦を想定した練習をするのは火曜、木曜、土曜の3日だけ。月曜と水曜はアサイメントの習得を含めたミーティング、体幹を主とするトレーニングに充てられる(金曜と、大会シーズン中の試合日を除く日曜は休息日)。また、中間・期末の試験期間は勉強のために、試験日の1週間前から練習は休みになる。
「進学校ですから勉強もおろそかにできないのです。でも、それを言い訳にはしたくない。ならば練習を工夫しよう。限られた時間でも練習の合理化を徹底すれば、チームを強くすることはできると考えたのです。そもそもスパルタ練習というのは無駄が多いですからね」と小林監督は言い切る。たとえば延々と続くランニング。
「確かにフィジカルの強化にはなると思いますが、その間、競技に必要なスキルは身に付きません。で、スキルの練習は別に時間をとって行なう。そんな風に練習時間がどんどん増えていくわけです。でも、フィジカル強化とスキルの練習を同時にやれば、短時間で済むじゃないですか」
ロータスは基本練習の徹底と実戦を想定した練習に大半の時間が使われる。オフェンス11人、ディフェンス11人が対峙し、数多くのアサイメントを繰り返し行い、使えるようにしていくのだ。この時、選手たちは全力で走り、ぶつかる。これを続けるのだから、スキルの習得とフィジカル強化が同時にできるのだ。
また、長時間の練習を課す部活では、練習を見ているだけの部員が結構いるものだ。1年生は練習に参加させてもらえず、声出しだけをしたり、スキル練習が個別に行われている間、大勢がそれを見ていたり、ということが多い。ロータスの場合はレベル別に2つのグループに分け、同時進行で練習を行なう。見ているだけの部員はおらず、常に全員が練習している状態にあるわけだ。
実戦的な練習を行なう火曜と木曜の練習時間は16時から19時。与えられているのは3時間足らずだが、この限られた時間を有効に使い切ることで、スキルもフィジカルも十分に鍛えられるのだ。
「それと、私は部員を限界まで追い込むような練習は良くないと思っているんです。だから、余力が少し残っているところで練習を終えるようにしています」
これは部員の練習に対するモチベーションを上げることと、けがの防止を考えてのことだ。
「スパルタ練習を強いる部活の部員たちは、練習から逃げたいという意識があるはずです。しんどくてつらいですから。強豪校の場合は、それを承知で入ってくる者が多いから耐えますが、ウチは進学校という事情もありますし、私自身、高校生の部員たちを精神的に追い詰めてまで、強くしようとは思いません。余力を残し、練習し足りないな、と思うくらいのところで終える。それは練習への部員たちの意欲をかき立てることにもつながりますからね」
この効果は部員たちの練習終了後の過ごし方にも表れている。ストレッチをし、用具の片づけなどをすれば帰っていいのだが、全員がグラウンドを去りがたいという感じで、ボールを投げ合ったり、体の当て方を試したりしながら談笑している。その姿はアメリカンフットボールが好きな少年たちが、ボールを使って遊んでいる感じだ。
「ボール遊びは楽しいですよね。楽しいから何も言われなくても遊び始めるし、止められても遊び続けたいと思う。それと同じですよ」(部員)
話を聞くと、部員の誰もが「練習は楽しいです」「練習日が待ち遠しい」と語る。こちらを真っ直ぐに見て力強く語るのだから、この言葉に嘘はない。
チームを強くするにはスパルタ練習しかないと信じている指導者には、信じられないかもしれない。だが、ロータスはこの練習環境で実力を伸ばしているのだ。
プロフィル
あいざわ・こういち 1956年、埼玉県生まれ。スポーツライターとして野球、サッカーはもとより、マスコミに取り上げられる機会が少ないスポーツも地道に取材。著書にアメリカンフットボールのチームづくりを描いた『勝利者―一流主義が人を育てる勝つためのマネジメント』(アカリFCB万来舎)がある。
弱小チームから常勝軍団へ
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