弱小チームから常勝軍団へ~佼成学園高校アメリカンフットボール部「ロータス」クリスマスボウル3連覇の軌跡~(2) 文・相沢光一(スポーツライター)

求められるインテリジェンス

部員数が少なく、選手が攻撃でも守備でも出続けなければならないハンデは、フィジカル面だけではない。戦術やプレーの習熟度でも差が出るのだ。

アメリカンフットボールはプレーの前、攻撃側にハドルという円陣を組むことが許されている。主に攻撃のリーダーであるクオーターバック(QB)が、次に行うプレーを全員に伝えるわけだ。こうした、事前に「打ち合わせ」ができるアメリカンフットボールで重要なのが“アサイメント”。「選手個々に割り当てられた役割」という意味だ。

アサイメントを具体的に説明すると、こうなる。

現在の陣地を示すスクリメージライン上に置かれたボールを持つのがセンター(C)。この後方にいるQBがボールを受け取る合図を出した瞬間、全員が採用されたプレーに従ったプレーをする。ランプレーのボールキャリア(ボール保持者)になるランニングバック(RB)は、どのタイミングでQBから受け取り、どのコースを走るかを。前方にいるオフェンスラインの選手はRBの走路を開けるため、対面するディフェンスラインをどうブロックしてギャップ(穴)をつくるかを。また、パスキャッチ役のワイドレシーバー(WR)は、ランプレーの囮(おとり)になることも含めて、どのコースを走るかなど、プレーごとに個々の動き方が決められている。全員が自分に割り当てられた役割を同時に果たす、これがアサイメントだ。

一般的なオフェンスとディフェンスのフォーメーション ※クリックして拡大

選手たちは練習を繰り返すことでこのアサイメントを覚え、精度を高めて試合で使えるようにしていく。手に入れたアサイメントにはチーム内だけで通用する名称が付けられ、例えば「ドラゴン」と名付けたアサイメントがあれば、ハドルの時「次はドラゴンでいくからな」というように全員に伝えられるわけだ。

このアサイメントの種類は無限にある。すでに多くのチームが使っているベーシックなアサイメントだけでも100以上あるし、NFLのプレーブックでは1000を超えるアサイメントが紹介されている。これに指導者や選手のアイデアで新たに生み出されるアサイメントが加わるから種類は無限なのだ。また、アサイメントは攻撃だけでなく守備にもある。多彩な攻撃のアサイメントに対応するためのものだ。

アメリカンフットボールは激しいスポーツであり、プレーする選手たちがパワー、スピード、スキルといった身体能力を備えていることが大前提となる。が、それだけでは勝てない。数多くのアサイメントを覚え、決められた役割を果たせる知的能力をもつ選手がそろっていなければ強いチームになれないのだ。インテリジェンス(知性)が求められるスポーツなのである。

インテリジェンスでは現在の佼成学園は胸を張れるといっていい。国立大や一流私大の合格率が高い進学校なだけに、知的好奇心が強く、興味をもったことは追求しないではいられない生徒が多いといえる。

ロータスの選手たちもゲームの面白さを知るに従って、アサイメントを突き詰めていく。だが、攻撃と守備の両方をこなさなければならない当時の状況では、練習も十分にできず、精度を高めることができなかったのだ。

「その差を感じていたことは確かです。ただ、アサイメントには関心があって、自分たちでオリジナルを考えて試合で試していました」と語るのは創部10年目の時のキャプテンで、現在ディフェンスコーチを務めている関孝英氏だ。

「強豪校と対戦した時、試合中に相手のベンチを見ると控え選手が数十人いるのに、ウチには3人ぐらいしかいない。これじゃ勝てるわけないな、と思うわけです。でも、その一方で反骨心が芽生えてくる。勝ち目はないけどビッグプレーを決めて、ひと泡吹かせてやろうぜってね。で、かなりトリッキーなアサイメントを考えては練習し、試合で試したんです。それが、ものの見事に決まると気持ちいいんです(笑)」

当時のロータスの選手たちは、そのようにアサイメントに向き合い、試合に楽しみを見いだしていたわけだ。

ところが、関氏が卒業した2年後、ロータスは強豪校とも対等以上に戦えるチームになった。1986年の春季都大会で4位になり、進出した関東大会で準優勝。強豪校がチームを仕上げて臨む秋季都大会でもベスト16に入ったのだ。部員が少ないという状況は変わらなかったにもかかわらずだ。

その時、チームのエースRBを務めていたのが、ロータスを3年連続日本一に導いた小林孝至監督だった。

プロフィル

あいざわ・こういち 1956年、埼玉県生まれ。スポーツライターとして野球、サッカーはもとより、マスコミに取り上げられる機会が少ないスポーツも地道に取材。著書にアメリカンフットボールのチームづくりを描いた『勝利者―一流主義が人を育てる勝つためのマネジメント』(アカリFCB万来舎)がある。