男たちの介護――(10) 変わりゆく父 激動の中での決断

父は最期まで私が看よう

8年前のことだ。「ここに置いてあった銀行のキャッシュカードをどこへやった! おまえ、俺の金、盗んだだろう」。突如激高する父親に、徳田昌平さん(74)は困惑した表情で答えた。「いいかげんにしてくれよ。父さんの金なんて盗んでいないよ。父さんの方こそ、この間、キャッシュカードを外出先で無くしたばかりじゃないか」。

「いや、俺はこの目ではっきり見た。金を盗んだのはおまえだ」。押し問答が幾度となく繰り返された。揚げ句には、父親から羽交い絞めにされた。あまりの痛さに声も出ない。額には脂汗もにじんできた、その時、突然、拘束が解けた。振り返ると、父は何事もなかったように部屋を出ていった。

父・知則さん(当時90歳)は消防署の救急救命士だった。定年退職後はよくゴルフの練習場に出掛けたり、立正佼成会の教会にも足を運んだりしていた。ところが、12年前、長年連れ添った由紀さん(享年84)に先立たれると、外出する機会がめっきり減り、口数も少なくなった。

異変が現れ始めたのは2008年のことである。最初は人の名前を忘れたり、財布や通帳を無くしたりする程度だったが、そのうち感情の起伏が激しくなり、突然怒り出して周囲を驚かせた。

「こんなに味が薄いものなんて食えるか!」。毎日のように昌平さんの妻・史子さん(71)に罵声を浴びせた。史子さんはその都度、調理の味付けや盛り付けに工夫を凝らしたが、知則さんが気に入ることはあまりなかった。