男たちの介護――(12) 徳田昌平さんの体験を読んで 津止正敏・立命館大学教授

支える仕組みと「気づき」の力

役目を終えた現在だからこそ、分かることもあるのでしょう。「人の輪に支えられて得た静穏な日々」にあるという徳田昌平さん(74)=仮名=の介護体験に学ぶ点は多く、在宅での認知症介護には、介護者を支える仕組みがどうしても必要だということです。

その仕組みの一つは、認知症への理解を促進すること。介護する人とされる人との状況の組み合わせによって濃淡はありますが、介護する人の認知症理解を支援することは不可欠のようです。認知症の原因疾患や症状を正しく理解して介護に当たることができれば、介護者の不安を除去し混乱を抑えて介護生活の安定につながるに違いありません。課題は、認知症理解を支援する仕組みをいかに作っていくかに懸かっています。こうした支援の場や機会は、初期症状の時にこそ必要なのでしょう。

徳田さんの父親のような、錯覚・暴言・暴力等々の異変も、嵐が収まれば「何事もなかったように」落ち着きを取り戻す。とりわけ初期段階では同じような症状が現れてくる。何かおかしいけれど、行政や医療機関に行くのも気が引ける、という初期段階の不安や葛藤に対応する場所と人材が必要となるのです。

介護者を支える仕組みのもう一つは、介護資源へのアクセス。徳田さんは、公的サービスの利用について「どこに相談に行けばいいのか」「どういう支援制度があるのか」分からないことだらけだった、と振り返っています。介護保険制度が始まって以降、介護資源がコンビニの数以上にも整備され、ケアマネジャーという新たな介護の相談援助職も生まれました。地域包括支援センターもあります。何とかなりそうだと思われがちですが、実際はそう簡単にはいきません。むしろ、徳田さんのように最初は何も分からなかったという人がほとんどなのです。時を経るほど、より複雑さを増している制度設計が、私たちをさらに介護資源から遠ざけているのでしょう。介護の資源と仕組みを「知る」ことは、今も変わらぬ私たちの課題にほかなりません。