男たちの介護――(14) 母への感謝 激動の中で見えた幸せ

家族みんなが幸せになれた

トラックの行き交う国道を離れると、やがて道は緩やかなカーブに差し掛かった。眼前には瀬戸内海の美しい景色が一面に広がる。

ルームミラーで後部座席を見ると、義母の岡田チヨさんは眠っていた。時折、眉をしかめる。苦しいのだろうか。あるいは、苦しさに耐えながら、まどろんでいるのだろうか。

「なんだか、しんどそうやね」

岡田利伸さん(68)は、助手席に座る妻の智子さん(63)に語り掛けた。

認知症の症状が進んだチヨさんは、実の娘である智子さん、三男の浩介さん(35)以外の家族の記憶は既になく、在宅で介護に当たる岡田さんが誰かも認識できないようだった。

チヨさんは寝たきりではないものの、自らの意思を示すことはない。岡田さんが食事を口まで運ぶと完食するが、自分から「食べたい」とは言わない。車椅子に乗せてグループホームへ連れて行っても、以前のように音楽に合わせて体を揺らすこともない。“ただ、その場にいる”としか表現しようのない状態になってしまった。

自らチヨさんの介護をすると決心して6年が経っていた。立正佼成会の教会で機関紙誌や書籍などを会員らに広めるお役に励む妻と共に、買い物や洗濯をこなし、昼と夕方に流動食を与えた。その合間を縫うようにして、次男の哲也さん(37)が入院する医療センターへ足を運んだ。一日たりとも休まず、ぐっすり熟睡した夜はなかった。

そんな中、追い打ちをかけるような出来事が起こった。チヨさんの介助をしていると、突然下腹部に激痛が走った。出血が見られたため、すぐに病院へと向かった。診断の結果は膀胱(ぼうこう)がん。緊急手術が行われ、1週間の入院生活を余儀なくされた。