男たちの介護――(18) 仲田惠三さんの体験を読んで 津止正敏・立命館大学教授

新しい介護生活の可能性

住まいのある地元から生家まで、500キロをまたいで親の介護を担っている仲田惠三さん(71)=仮名=。電車を乗り継げば10時間、車で急いでも8時間超に及ぶ「遠距離介護」のカタチは、核家族世帯が圧倒的多数派となった時代の象徴かもしれません。今を生きる私たちの、誰にも起こり得る介護問題とも言えましょう。

「冷遇・衰弱・不衛生」「長寿嘆く20万人寝たきり老人」――これは、日本で初めての介護実態調査(全社協主催)の結果を報じた昭和43年9月14日の「朝日新聞」朝刊の見出しです。20万人と推計された「寝たきり老人」を介護する人は、子供の配偶者(ほとんどが嫁)がほぼ半数を占め、次が配偶者(大部分が妻)で4人に1人、3番目が娘で6人に1人と、9割以上が婦人の肩にかかっている、と報じられたのです。日本初の調査報告、今であれば全国紙の1面トップを飾るビッグニュースに違いありませんが、当時は社会面において人気の4コマ漫画の下欄に、たった3段組みの記事として扱われただけでした。当時の、介護問題への社会の関心度を推測するに十分な扱いです。

家族が介護を担うことが、健全な家族の証しとされてきました。介護は、家族の責任と誰もが当然のように受け入れて、それを疑う余地すらなかった時代のエピソードです。昭和40年代は仲田さんの青年期、多分に〈あんち(長男)である自分が親の面倒を見るのが当たり前〉という社会規範を、空気を吸うがごとくに深く内面化していたと思います。それだけに、老いた親と離れて暮らすことへの「引け目」はいかほどだったか、この時代を生きる多くの息子たちに通底する思いに違いありません。