男たちの介護――(15) 岡田利伸さんの体験を読んで 津止正敏・立命館大学教授

人生に深みもたらす介護体験

介護をする人や、される人の属性を、類型化あるいは数値化すると、介護の全容が分かったような気持ちになります。根拠のある介護の方法を得られるような気持ちにもなります。でも、それはとんでもない勘違いであることは、これまでの本連載でも明らかになっていますが、今回の岡田利伸さん(68)=仮名=の介護体験のケースでもそうでした。介護は常に具体であり、個別であり、そして、特殊な生活行為であることを教えられたのです。

岡田さんは、7年前から義母の岡田チヨさん=仮名=の介護を続けてきました。介護家族の続柄で言えば、最も少数派に属する婿による介護です。婿の介護は、直近の国民生活基礎調査(平成28年)によれば、主たる介護者全体の0.3%程度ですが、その実数として1万人を超える婿たちが介護を担っているという事実も無視できません。ただ、こうした数値を並べても、婿の介護が自分に起こり得ることだと実感することは難しいのです。

では、なぜ岡田さんは、妻・智子さん(63)=仮名=と一緒にチヨさんの介護に当たるようになったのでしょうか。実は、この疑問こそが介護を人ごととせず、私たちと決して無縁でないことを理解する契機になるのです。

岡田さんは、22歳の時に実母を病気で失いました。48歳の若さだったといいます。親孝行も恩返しもできないうちに、という思いを拭い切れなかったのでしょう。母の愛情いっぱいで過ごしてきた思いに、結婚以来何かとかわいがってくれたチヨさんの姿が重なったのだと思います。「二人の母への恩返し」――その一心で介護者として生きようとする岡田さんの思いが痛いほど伝わってきました。