バチカンから見た世界(146) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

そして、「昨年10月7日(ハマスによるテロ攻撃)までは、西洋の全ての人々がパレスチナとその住民500万人のことを忘れていた」が、新聞やテレビで頻繁に報道されるようになった現在は、「国際共同体がパレスチナ問題の解決のために介入する絶好の機会となっている」と語った。

シュタイエ首相はさらに、イスラエルとの直接交渉が今のところ「完全な失敗に終わってしまっている」と嘆き、「1994年の自治政府創設以来、われわれの全ての努力は、自由で独立した未来のパレスチナ国家建国のために注がれてきた」と回顧する。だが、「イスラエルの政治指導者たちのメンタリティーは、われわれの希求に対する呪いとなった」という。パレスチナ建国の道のりは、「苦労して丘の上に石を運んでも、そのたびに突き落とされ、一から始めなければならなかった」と振り返る。そして、「ここは聖地だ。聖地に呪いがあってはならない」と訴えた。

パレスチナ国家の建国にとって絶望的な逆境が続く中、シュタイエ首相は“逆説”を説く。これまでは、まず国家の土台(制度)を築き、その上に屋根を張る(パレスチナ国家の国際認知)努力をしてきたが、現在は、屋根を張ることを優先させようというのだ。パレスチナ国家の国際認知は、「1967年(第三次中東戦争)以前に引かれていた国境線と、聖都エルサレムを首都とすることを基盤に実行されなければならない」とも主張した。

だが、イスラエル政府は20日、ガザ地区が同国の脅威とならないよう安全保障権を行使すると明かした。同国の安全保障を名目にPNAの主権を排除し、事実上の支配体制を敷く試みと受け取れる発表だった。

こうした状況下で、国内からはハマスに拉致されている人質の解放問題への対処を中心に、ネタニヤフ首相の施行する一連の政策に不満が高まっており、同首相の辞職や、早期の総選挙を求める声が強まっているとの報道もなされるようになってきた。イスラエル・ハマス間戦争と、その後の解決をさらに混乱させていく状況が発生しつつあるのだ。