バチカンから見た世界(156) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

3宗教間の融和なくして中東和平は実現できない(8)―戦火ではなく星によって照らされる天地を求める教皇―

イスラエルは4月1日、シリアのダマスカスにあるイラン大使館を爆撃した。公館を攻撃することは、国際法によって禁じられている。その報復として、イランは13日夜から14日にかけて、大量のドローンやミサイルをイスラエルに向けて発射。イランが自国内から直接、イスラエルを攻撃するのは初めてのことだった。

そして、欧米の複数メディアは19日、イスラエルが再報復としてイラン中部イスファハン州にある軍事施設を攻撃したと伝えた。同州にはイランの核開発施設があるが、そこに対する空爆はなかった模様だ。さらに、19日夜から20日未明にかけて、イラクの首都バグダッド南方にあるイスラーム・シーア派親イラン民兵組織の施設が攻撃された。これを受け、同国の「イスラーム抵抗運動」は、報復としてイスラエル南部の軍事基地に対してドローンを発射したと公表した。だが、イスラエルは、関与を否定している。

ガザ紛争が、イスラエルと、イスラーム過激派組織ハマスによる報復の繰り返しで激化したように、イスラエルとイランによる復讐(ふくしゅう)の連鎖が、中東全域へと拡大していくことが恐れられている。報復は怨念と憎悪を生む。最近の中東情勢では、敵対者の完全な抹消を試みるほどになっている。

ローマ教皇フランシスコは4月12日、イスラームの断食月(ラマダン)の終わりに際し、アラブ首長国連邦のドバイを拠点とするアラビア語国際ニュース衛星放送「アル=アラビーヤ」にメッセージを送付。この中で、中東3大宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラーム)に共通の祖師であるアブラハムの宇宙観を原点とする中東和平を訴えた。

そして、「兄弟姉妹(ムスリム)の皆さん、私たちの祖師であるアブラハムは、星を見つめるために天を仰ぎました」と語りかけた。星の光は、「天から私たちを包み、抱擁する生命の光であり、憎悪の暗闇を超越するよう懇願している」のであり、「創造主なる神の意図は、天井の星が地を照らすことであって、天空に火を点(つ)ける兵器の火力によって破壊される地上ではない」と述べた。

さらに、ガザ紛争、シリアやレバノンの状況などに触れ、中東全域で、「軍備拡張という不吉な追い風を受ける怨念の炎が、燎原(りょうげん)の火の如く広がらないようにしよう」と呼びかけた。自然と同じように、人間の心、諸国民の生活においても、「砂漠に花が咲く」という現象は起こり得ると主張し、「憎悪の砂漠に希望を芽生えさせるためには、私たちが共にあり、手をつないで横に立ち、他者の確信を尊重し、各々(おのおの)の国民の生存権と国家の主権を認め、誰も悪魔視しないことが大切だと知らなければならない」と戒めた。