気づきを楽しむ――タイの大地で深呼吸(48) 写真・文 浦崎雅代(翻訳家)

彼の成長を促したことの一つに、夫の息子への関わり方があるのではないかと思っている。実は1カ月ほど前から毎日、夜寝る前のほんの2、3分、夫は息子にある問いかけをするようになった。

「3G(息子のニックネーム)、今日は何か役に立つ良いことはできたかな?」

アシュラムの入口で門番をする息子

寝る前の時間は、私を含め家族3人がリラックスできる楽しい時間だ。冗談を言ったり、じゃれ合ったり。そんな楽しい雰囲気の中で夫はこう問いかけ、息子は一つ一つ、自分の行動を思い出しては、「一つはね、門番をやったよ。二つ目はね、お母さんの買い物の荷物を持ってあげたよ。三つ目はね、お父さんと畑に行って、パパイヤの苗に水をあげたよ」などと言葉に出す。

何げないやりとりだけれど、私はある日ハッとした。自分の行動を言葉に出して確認する――これはとても重要なことではないのか、と思えたのだ。

よく、教育に関する議論の中で、「子供の自己肯定感を高めることが大事だ」という話を聞く。自己肯定感とは、〈自分は何があっても大丈夫〉という自身への信頼感のことだ。何事に対しても、〈自分はだめだ〉とか〈自分にはできない〉という意識を持たず、自分を信頼していけるというのは子供だけではなく、大人であっても大切な心の姿勢と言えるだろう。

一方、実際にはどうやって自己肯定感を高めればいいのだろう、と疑問も感じていた。「ありのままの自分を肯定する」という場合の「ありのままの自分」というのも、実はなんだか漠然としてピンと来ない。しかし、夫が息子に促していた様子を見ていて、自分がした良い行動を自分で確認する、というシンプルな方法を積み重ねることが、自己肯定感を高めていくのではないかと感じた。

夫はそんな仰々しいことは意識していないのかもしれない。これから先、息子が自己肯定感を持って生きていけるという保証ももちろんない。しかし、純粋に息子の成長を家族みんなで喜び合える時間があるというのは、本人もうれしいはずだ。それが私たちにとって今精いっぱいできることであり、本当に幸せな瞬間であることだけは間違いない。

プロフィル

うらさき・まさよ 翻訳家。1972年、沖縄県生まれ。東京工業大学大学院博士課程修了。大学在学中からタイ仏教や開発僧について研究し、その後、タイのチュラロンコン大学に留学した。現在はタイ東北部ナコンラーチャシーマー県にある瞑想修行場「ウィリヤダンマ・アシュラム」(旧ライトハウス)でタイ人の夫と息子の3人で生活している。note(https://note.mu/urasakimasayo)にて毎朝タイ仏教の説法を翻訳し発信している。