栄福の時代を目指して

栄福の時代を目指して(13) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

日本政治の暗転――戦後80年所感の警告

10月21日、高市早苗内閣が発足した。これは、日本政治にとって極めて深刻な歴史的事件になり得るので、今回は日本政治に絞って論じよう。

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栄福の時代を目指して(12) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

「文明の衝突」構図の明確化

世界秩序の巨大な変動が私たちの眼前で進行している。本連載でも言及したように、トランプ政権における「アメリカの帝国化」により、アメリカと欧州が分断され、中国との関係が悪化した。これによって、西洋文明が分裂するとともに、中国・ロシアという大文明との緊張関係が高まった。3帝国と共和国連合という構図ができたのである(第6回参照)。さらに、インドは最近アメリカと友好的だったにもかかわらず、高関税をかけられたために、アメリカに背を向けて、中国・ロシアと急接近した。

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栄福の時代を目指して(11)〈後編〉 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

ポピュリズム勃興の原因――分析と古典的洞察

核武装を容認するような危険な潮流が拡大しないためには、何が必要なのだろうか。私は、現在、ポジティブ政治心理学の観点から、ポピュリズムに焦点を当てて、参議院選挙を分析している(進行中)。独自の調査によって、おそらく物価上昇や生活難のために、日本人のウェルビーイング(幸福感)が昨年から下降していることがわかった。そして、ウェルビーイングの低い人たちが左右両極のポピュリズム政党を支持する傾向が高いということが判明した。与党や、立憲民主党、日本維新の会は比較的ウェルビーイングの高い人たちが支持する傾向があるので、この結果、改選議席に関して、これらの政党は敗北ないし沈滞し、逆に参政党や国民民主党が伸張し、日本保守党は議席を得て、れいわ新選組が微増したわけだ。

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栄福の時代を目指して(11)〈前編〉 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

永遠平和の祈り――世代を超えた希求

広島と長崎の原爆記念日、そして終戦記念日が巡って来た。毎年、戦争の記憶を呼び起こして、決して同じ過ちを繰り返さないように誓うという国民的儀式が行われる時期だ。しかし、今年は「例年同様」というわけではなく、重要な、善き変化があった。

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栄福の時代を目指して(10) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

平和なコアラと戦火――禍中の世界に灯り続ける「栄福」への希望

イスラエルとイランの停戦はなんとか維持され、12日間戦争が終結した。すぐに世界大戦へと進む最悪のシナリオは幸い回避されたのである。

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栄福の時代を目指して(9) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

イスラエル・イラン戦争――文明の衝突と世界平和への祈り

「栄福の時代」への動きとは逆に、深刻極まりない戦争が勃発してしまった。6月13日に、核兵器開発阻止を名分にイスラエルがイランを攻撃し、参謀総長や司令官などを殺害したのである。イランは反撃して、超高速ミサイルなどでイスラエルの誇っていた多重のミサイル防衛システム(アイアンドームなど)を突破し、機能を止めて、次々とテルアビブやハイファなどに打ち込んだ。軍事的応酬が続き、イスラエルも多大な被害を受け、アメリカに軍事的な参加を要請した。

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栄福の時代を目指して(8) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

強者の支配こそ正義?

前回は、プラトンのソクラテス対話編を参考に、生成AI(チャット君)や夢中でのトラギアスと青年哲学徒・即礼君の対話形式で書いてみた。書きながら想起していたのは、30代はじめにおいてイギリス・ケンブリッジ大学研修中に聴講したプラトン講義である。同大学では、客員研究員は他学部の講義も自由に聴講できるので、自分の属した社会政治学部以外の講義も、それぞれの建物に通って毎日聴講していた。この大学には古典学部があり、有名なM・F・バーニェト(イギリスの古代ギリシア哲学研究者)らによるプラトン対話編に関する講義も聴いた。講義ではギリシャ語で原典を読んでいたが、場面ごとに説明を加え、生き生きとその様子を語っていて、その対話の場に自分も引き込まれるような臨在感があった。連載でも、そういった感覚を少しでも味わって頂きたいと思い、即礼君の物語に託して関連する箇所をなるべく示していきたい。歴史の面影の漂う雰囲気が多々この大学にはあり、書いてみたい気もするが、今は筆を急ごう。

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栄福の時代を目指して(7) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

「解放の日」の既視感

本連載第5回では、青年哲学徒S・即令君が、科学アカデミーや左翼政党の勉強会に赴いて、先生方と問答をしたという設定でエピソードを書いた。私自身はマルクス主義に詳しいわけではないし、その資本主義批判には今でも意味があると思っている。しかし、この問答は、私が青年時代に父と交わした多くの会話に源流がある。唯物論ないし史的唯物論の限界という認識には、父という1人の人間の実存(研究人生)がかかっていると言って良い。その肩の上に私の視座が成立してきたのである。

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栄福の時代を目指して(6) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

驚愕の世界史的事件

読者の皆様は、映画『スター・ウォーズ』をご覧になったことがあるだろうか。宇宙の銀河共和国を守るジェダイ評議会を中心に共和国の盛衰や再興を描く物語だ。この中の『エピソード3/シスの復讐』における忘れがたい衝撃的なワンシーンとして、共和国のパルパティーン最高議長が実は、悪の中心である暗黒卿ダース・シディアスだったことがわかる映像がある。議長を徐々に信じてきた若きアナキン・スカイウォーカーは、それを知って初めは倒そうとしたものの、心理的誘惑にかかって操られてしまい、議長を逮捕しようとしたジェダイのNo.2(メイス・ウィンドウ)を殺してしまう。この結果、スカイウォーカーは暗黒面に落ちて暗黒卿ダース・ベイダーとなり、他の多くのジェダイも倒されて共和国は崩壊し、暗黒卿が操る銀河帝国へと変化してしまうのである。

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栄福の時代を目指して(5) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

栄福学・序説の起点――科学主義の陥穽

「栄福学・序説」を、前回述べた議論を起点として進めてみよう。今の世界では、超越的実在を否定するか括弧(かっこ)に入れて物質世界だけを探求する学問(学問類型B:形而下限定学=けいじかげんていがく)がほとんどだ。この世界に慣れた研究者たちには、このような学問のあり方を自明視するあまり、あたかも不可視の世界は存在しないように考える習慣が身に付いてしまっている人が多い。この発想が教育や社会的通念において広がっているために、宗教や精神性は片隅に追いやられてしまった観がある。

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