栄福の時代を目指して
栄福の時代を目指して(11)〈後編〉 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)
ポピュリズム勃興の原因――分析と古典的洞察
核武装を容認するような危険な潮流が拡大しないためには、何が必要なのだろうか。私は、現在、ポジティブ政治心理学の観点から、ポピュリズムに焦点を当てて、参議院選挙を分析している(進行中)。独自の調査によって、おそらく物価上昇や生活難のために、日本人のウェルビーイング(幸福感)が昨年から下降していることがわかった。そして、ウェルビーイングの低い人たちが左右両極のポピュリズム政党を支持する傾向が高いということが判明した。与党や、立憲民主党、日本維新の会は比較的ウェルビーイングの高い人たちが支持する傾向があるので、この結果、改選議席に関して、これらの政党は敗北ないし沈滞し、逆に参政党や国民民主党が伸張し、日本保守党は議席を得て、れいわ新選組が微増したわけだ。
栄福の時代を目指して(11)〈前編〉 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)
永遠平和の祈り――世代を超えた希求
広島と長崎の原爆記念日、そして終戦記念日が巡って来た。毎年、戦争の記憶を呼び起こして、決して同じ過ちを繰り返さないように誓うという国民的儀式が行われる時期だ。しかし、今年は「例年同様」というわけではなく、重要な、善き変化があった。
栄福の時代を目指して(10) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)
平和なコアラと戦火――禍中の世界に灯り続ける「栄福」への希望
イスラエルとイランの停戦はなんとか維持され、12日間戦争が終結した。すぐに世界大戦へと進む最悪のシナリオは幸い回避されたのである。
栄福の時代を目指して(9) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)
イスラエル・イラン戦争――文明の衝突と世界平和への祈り
「栄福の時代」への動きとは逆に、深刻極まりない戦争が勃発してしまった。6月13日に、核兵器開発阻止を名分にイスラエルがイランを攻撃し、参謀総長や司令官などを殺害したのである。イランは反撃して、超高速ミサイルなどでイスラエルの誇っていた多重のミサイル防衛システム(アイアンドームなど)を突破し、機能を止めて、次々とテルアビブやハイファなどに打ち込んだ。軍事的応酬が続き、イスラエルも多大な被害を受け、アメリカに軍事的な参加を要請した。
栄福の時代を目指して(8) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)
強者の支配こそ正義?
前回は、プラトンのソクラテス対話編を参考に、生成AI(チャット君)や夢中でのトラギアスと青年哲学徒・即礼君の対話形式で書いてみた。書きながら想起していたのは、30代はじめにおいてイギリス・ケンブリッジ大学研修中に聴講したプラトン講義である。同大学では、客員研究員は他学部の講義も自由に聴講できるので、自分の属した社会政治学部以外の講義も、それぞれの建物に通って毎日聴講していた。この大学には古典学部があり、有名なM・F・バーニェト(イギリスの古代ギリシア哲学研究者)らによるプラトン対話編に関する講義も聴いた。講義ではギリシャ語で原典を読んでいたが、場面ごとに説明を加え、生き生きとその様子を語っていて、その対話の場に自分も引き込まれるような臨在感があった。連載でも、そういった感覚を少しでも味わって頂きたいと思い、即礼君の物語に託して関連する箇所をなるべく示していきたい。歴史の面影の漂う雰囲気が多々この大学にはあり、書いてみたい気もするが、今は筆を急ごう。
栄福の時代を目指して(6) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)
驚愕の世界史的事件
読者の皆様は、映画『スター・ウォーズ』をご覧になったことがあるだろうか。宇宙の銀河共和国を守るジェダイ評議会を中心に共和国の盛衰や再興を描く物語だ。この中の『エピソード3/シスの復讐』における忘れがたい衝撃的なワンシーンとして、共和国のパルパティーン最高議長が実は、悪の中心である暗黒卿ダース・シディアスだったことがわかる映像がある。議長を徐々に信じてきた若きアナキン・スカイウォーカーは、それを知って初めは倒そうとしたものの、心理的誘惑にかかって操られてしまい、議長を逮捕しようとしたジェダイのNo.2(メイス・ウィンドウ)を殺してしまう。この結果、スカイウォーカーは暗黒面に落ちて暗黒卿ダース・ベイダーとなり、他の多くのジェダイも倒されて共和国は崩壊し、暗黒卿が操る銀河帝国へと変化してしまうのである。
栄福の時代を目指して(4) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)
新年の大計:栄福を実現するための包括的学問
皆様は新年を迎えてどのような抱負を持たれただろうか。私は喪中なので正月らしい祝い事は控えたが、この1年と言わず、10年以上にも及びそうな大計を立てた。その核心は、「栄福の時代に向けて」、人々の栄福を実現するための哲学と社会科学の包括的な学問を樹立する、というものだ。この哲学や学問体系を「栄福哲学」や「栄福学」と呼ぶことにしよう。
栄福の時代を目指して(3) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)
動乱の世界:アメリカを支配するポピュリズム
連載『栄福の時代を目指して』2回目では、日本政治に生まれた「栄福政治への夜明け」という可能性について述べた。3回目では、世界全体のビジョンについて述べよう。前者には希望を感じても、世界全体の動向には不安を感じている人が多いに違いないからである。二つの大学で授業において学生に質問の時間を設けたところ、案に相違して、当該の授業内容に関してよりも、今の内外の状況について私の考えを聞きたいという声が相次いだ。例えば、総選挙、兵庫県知事問題、ドナルド・トランプ大統領再選、日米関係、ウクライナ問題、中東問題、韓国の戒厳令布告、シリアの政変……というように。前回、日本政治には総選挙で民主主義回復という曙光(しょこう)が射(さ)したと述べたが、地球全体を見渡すと、混沌(こんとん)としており決して明るい図柄は浮かんでこない。この激動や混沌とした状況が、これまで政治に大きな関心を持たなかった若年層にも、政治的関心を高めたのだろう。