おもかげを探して どんど晴れ(5) 文・画 笹原留似子(おもかげ復元師)

おじいちゃんを棺に安置する前に、集まっていた大勢の皆さんに今の説明をして、おじいちゃんと彼の時間を作るために少しお時間を頂きました。

彼は私の膝の上に座り、恐る恐る私の手からおじいちゃんの手を受け取りました。何も話さなくても、何が起きていたのかを彼は理解しました。大きな声で泣き、その後は私の膝から降りて、おじいちゃんの亡骸にすがっていました。彼のおばあちゃんが、「おじいちゃんはこれから、お空の上に行くんだよ」と話しました。

彼が熱心に何かを書き始めました。見ると、それは「とっきゅうけん」と、書かれていました。お空の上に行く電車の特急券なのだと、彼が話してくれていました。彼は立ち上がると、窓を開けて叫びました。「おじいちゃーん!」。それを見て、おばあちゃんが言いました。「おじいちゃんは、まだここにいるんだけどね!」。おばあちゃんが亡骸に触れました。「あ、そっか」。彼が笑いました。それを見て皆さんが涙をポロポロ流しながら、みんなで笑いました。

一つ一つの行動には、その人の精いっぱいの気持ちが表現されていること。おじいちゃんだって、彼と別れて行きたくなかったでしょうから、そう考えると、死を迎えてもおじいちゃんと彼がお互いに大切に思い合う関係は生き続けていて、絶対に変わらないことを、私は彼から学ばせてもらいました。

悲しみの深さは、もらった愛情の深さに等しいと言われています。彼がどれほどおじいちゃんに愛されていたのか……。そう考えると胸が熱くなったのでした。

※タイトルにある「どんど晴れ」とは、どんなに空に暗雲が立ち込めても、そこには必ず一筋の光がさし、その光が少しずつ広がって、やがて真っ青な晴天になるんだよ、という意味です

プロフィル

ささはら・るいこ 1972年、北海道生まれ。株式会社「桜」代表取締役。これまでに復元納棺師として多くの人々を見送ってきた。全国で「いのちの授業」や技術講習会の講師としても活躍中。「シチズン・オブ・ザ・イヤー」、社会貢献支援財団社会貢献賞などを受賞。著書に『おもかげ復元師』『おもかげ復元師の震災絵日記』(共にポプラ社)など。

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