心の悠遠――現代社会と瞑想(8) 写真・文 松原正樹(臨済宗妙心寺派佛母寺住職)

佛母寺での食後の洗鉢。禅では食事も修行の一つと捉え、生かされているいのちの尊さに気づくとともに、欲を抑え、“今”に感謝する大切さを説く(写真=筆者提供)

禅と知的文化交流

米・ニューヨーク州のコーネル大学の学生や教員ら22人が6月13日から24日まで、神奈川・鎌倉市の寺院や自坊の佛母寺(千葉・富津市)を巡る、「佛母寺・コーネル大学日本仏教実践授業講座」を開催した。毎年恒例の講座で、今年で4回目となる。自然の中で行う作務や坐禅など僧堂体験を通じて、「仏教と私たちを取り巻く社会・環境問題」について学ぶためのものだ。

同大アジア研究学科ならびに宗教学プログラムのジェーンマリー・ロー教授の授業を受講している学生や大学院生、OB・OGらが参加。宗教学や歴史学、建築学、機械工学など学生たちの専攻は多様で、インド系や中国系など、集まった参加者のバックグラウンドもさまざまであった。

プログラムは円覚寺で始まり、建長寺、佛母寺と宿泊場所を移動し、朝晩は坐禅に臨んだ。また、竹林で知られる報国寺や覚園寺を散策し、自然と共存する寺院の姿を肌で感じた。17日には東慶寺で茶道を体験。境内の茶室には、この日のために外国製の茶わんや香箱などが用意され、学生たちは花や掛け軸、風炉先屏風(ふろさきびょうぶ)等の設(しつら)えについて説明を受けた。

日本美術史を専攻する大学院1年生のジョ・イシンさんは、円覚寺での夜座(やざ)を振り返り、「水の音やカエルの鳴き声を聞きながら静かな時間を過ごした。人生の中でも初めての体験で感動した」と語った。また、大学4年生のキャリー・シさんは、「建長寺での中庭の草取りを通じ、私たちと自然は別々の関係ないものではなく、むしろ私たちの生活は自然と共にあるということを改めて痛感した」と語った。

同3年生のデミ・チャンさんは、「現在、メキシコとアメリカの国境での難民問題が、麻薬やギャングなどだけでなく、気候変動という危機によって引き起こされている。気候変動への取り組みとして仏教思想が大事になるだろう」と語った。仏教は森羅万象の中に仏性を見いだし、自然とは切り離せない関係にある。実体験を通じて多くの学びと気づきを得た。

21日から24日までは、世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)日本委員会のメンバー6人も加わり、百万の大軍を得た。コーネル大学の学生からは、「アメリカ人以外の同時代に生きる人と、アメリカ以外の場で、私たちを取り巻く現在の社会・環境問題を考え、意見を交換できたのは、この上ない最高のギフト。このような知的文化交流の対話の機会をさらに続け、つくっていくことが重要だ」という声をたくさん聞いた。

実際に、人種や人権、プラスチック製ごみによる環境破壊、地球温暖化など、私たちが直面している多くの問題に対して、仏教は大事な役割を持つであろう。宗教と社会・環境問題は決して別物ではない。むしろ同じコインの両側面である。というのは、もともと、人間の苦悩や人間が受ける諸問題を解くために宗教があるというのが大前提にある以上、宗教と社会・環境問題はつながっている。宗教界から社会・環境問題に対して動きがなければならないのである。

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