利害を超えて現代と向き合う

利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(54) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

東京オリンピックのメダルラッシュを祝えるか?

東京五輪が開催され、閉幕した。テレビは競技と日本のメダルラッシュにのみ焦点を合わせていたが、私たちは表面的な賑(にぎ)わいに惑わされずに、その陰で進行している現実を正しく直視しなければならない。仏教で言う正見だ。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(53) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

オリンピック突入による犠牲

東京では、3回目の緊急事態宣言解除の際に懸念されていた通りに、新型コロナウイルスの感染者が再び急増し、7月12日から4回目の緊急事態宣言が発令された。そうした状況にもかかわらず、多くの人々が反対署名などで中止を求めた東京オリンピックが始まった。東京では感染者が一日1000人を超える第5波を迎えており、五輪によって死者が増えることが危惧される。すでに選手村などで選手や関係者に次々と感染者が見つかっている。さらに開会式直前に、過去の言動が問題となって、楽曲担当のミュージシャンが辞任し、開閉会式のショーディレクターが解任された。海外メディア(USAトゥデイ)から「カオス」と評された通りの大混乱状況だ。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(52) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

コロナ後の世界は?

9都道府県の緊急事態宣言は6月20日まで延長され、暗い気持ちで過ごした人が多いだろう。昨日をもって多くの地域では解除されたものの、オリンピック・パラリンピックを開催できるようにするためではないかと疑われている。開催による感染者増を専門家が次々と試算しているのだから、まさに戦争時のように、死者を出すことを前提として目標を貫徹しようとしていることになる。連載の第45回第46回で「鬼滅の刃」に描かれているような「鬼の世」を論じたが、政府の発想を非人道的と感じるのは筆者だけだろうか。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(51) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

社会的不幸の中で生き延びる鍵

因果律(どのような事象も全て何らかの原因の結果として生じるという考え方、法則)を基に、一人ひとりの「個人的因果」と集合的な「政治的因果」を考えることができる。後者による結果が、“社会的な不幸”となって現れ、今月に入ってこれまで以上にそれが明らかになってきているのが今の日本の状況だ。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(50) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

因果は眩ませない

禅の公案に「不落因果」という言葉が出てくる(『無門関』第二則「百丈野狐」)。ある僧が修行者から、長年修行を重ねた人でも因果律(あらゆる現象は何らかの原因から生じた結果であるという法則)にとらわれるのかと問われ、大悟した人は「不落因果(因果律の制約を受けない)」と答えたところ、その答えが誤りであったために、僧は長期間にわたって野狐(やこ)に身を堕(お)とされてしまう。その後、「不昧因果(ふまいいんが・因果律を眩=くら=ませることはできない)」と喝破した百丈禅師の言葉を聞いて大悟するという逸話である。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(49) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

悪因悪果と善因善果

東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県で緊急事態宣言が3月21日をもって解除された。しかし喜ぶわけにはいかない。実際には、二度も期間延長したにもかかわらず、ここにきて新型コロナウイルスの新規感染者数は東京都などで増加に転じているからだ。緊急事態宣言と言っても実質的な施策が不十分であることをこの連載で指摘してきたが、残念ながら懸念した通りになってしまった。変異株が拡大し始めているので、本来ならば緊急事態宣言が解除できなくなってしまったことを認めて、その内容の大幅な拡充強化を改めて宣言しなければならないところだ。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(48) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

無為無策の結果

政府が1月7日に二度目となる緊急事態宣言を発令した時、菅首相は「1カ月での事態改善に全力を尽くす」と述べたが、感染は収束せずに宣言は延長された。しかし、国民の驚きは少ない印象だった。前政権時代から当局者が「瀬戸際の状況」(安倍首相、2020年3月28日)とか「勝負の3週間」(西村経済再生担当相、2020年11月25日)などと言っても、「勝負」に負けることが繰り返され、多くの人々が慣れっこになってしまったようだ。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(47) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

新年における「暗」――緊急事態宣言と連邦議会占拠という日米の非常事態

新年の連載初回にあたって、明暗を述べることにしよう。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(46) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

「鬼滅」世界と現実

先月は、「半沢直樹」や「鬼滅の刃」といった架空の作品世界に没入して楽しみつつ論じた(第45回)が、現実に目を戻すと、陰惨な光景が浮かび上がる。目に見える鬼がいるわけではないものの、「鬼」の気配が感じられるのだ。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(45) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

いま話題の大ヒット作品:「半沢直樹」と「鬼滅の刃」

最近、大ヒット作が立て続けに生まれている。テレビでは2013年に大反響を呼んだ「半沢直樹」が今年の7月19日から9月27日まで放送され、最終回は視聴率32.7%と2013年最終回以来の高い数字で、総合視聴率(リアルタイムとタイムシフトの視聴率の合計)は44.1%という。

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