利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(60) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

画・国井 節

ついに代表的なコロナ感染国となった日本

前回(第59回)では、新年に合わせて「栄福社会」という明るいビジョンを描いたが、それ以後、懸念したとおりにオミクロン株は猛威を振るい、日本社会を席捲(せっけん)している。東京における私たちの周辺でも、次々と幼稚園や学校などの施設で感染報告や休園・休校などが相次いでいる。一日の新規感染者数は全国で10万人前後というように、第5波までとは桁違いの多さになっている。

それにもかかわらず、日本人の危機意識は高まらない。オミクロン株は重症化率が低いと報じられているからか、コロナ禍が長引き、感覚が鈍っているのかもしれない。最近は国際的比較すら行うことが減ってしまっているので、まず「ジョンズ・ホプキンス大学のOur World in Data」のデータで確認してみよう。2月9日時点で、主要国では100万人あたりの週間平均感染者数は「フランス(約2470人)、ドイツ(約2310人)、イタリア、英国、オーストラリア、韓国、日本(約750人)、米国(約660人)」という順で、日本はついにアメリカを抜いてしまった。しかも、感染者の急増によって検査能力が飽和してしまい、検査なしに感染とみなす「みなし陽性」まで始めているほどだから、実際の感染者数はこの数字よりもはるかに多いだろう。

オミクロン株は感染力が強いから世界中がこうなっているかというと、そうではない。アジアでは「インド(約70人)、ニュージーランド(約51人)、台湾(約2人)、中国(約0人)」である。つまり、コロナ対策の成功国の多くは、今回もあまり感染が激しくなっていない。

コロナ禍の初期には、西欧諸国では激しい流行が見られたのに対し、日本を含めアジア諸国では被害が少なく、日本の政策を成功とみなす論調すら存在した。今や誰もそうは言えない。アジアの中で日本は、もっとも流行している国の一つとなり、現時点ではアメリカまで抜いて西欧諸国と並んで被害甚大な国の一つになってしまったからだ。

危機意識が低い一因は、「デルタ株に比べてオミクロン株は軽症が多い(重症化率が低い)」という説だけが流布しているからだろう。ワクチンの重症化抑制効果が働いているから、確かにそのように見える側面がある。だが、オミクロン株は感染力が高く、圧倒的な感染者数によって重症者数・死者数は増加を続けており、死者数はついに連日200人を超えるようになった(2月17日時点)。要は、被害が少ないのではなく、増加に対する感性が鈍化しているにすぎない。日本は、西洋諸国と並んでコロナ大流行国の一つになり、再び「コロナ敗戦」を経験しつつあるのである(第48回)。
※https://ourworldindata.org/covid-cases

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