利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(52) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

画・国井 節

コロナ後の世界は?

9都道府県の緊急事態宣言は6月20日まで延長され、暗い気持ちで過ごした人が多いだろう。昨日をもって多くの地域では解除されたものの、オリンピック・パラリンピックを開催できるようにするためではないかと疑われている。開催による感染者増を専門家が次々と試算しているのだから、まさに戦争時のように、死者を出すことを前提として目標を貫徹しようとしていることになる。連載の第45回第46回で「鬼滅の刃」に描かれているような「鬼の世」を論じたが、政府の発想を非人道的と感じるのは筆者だけだろうか。

先月(第51回)は、アウシュビッツ強制収容所ですら、生きる意味を持ち続けた人々が生還できたことを述べた。今の暗澹(あんたん)たる世を生き延びるためにも、人生の意味と希望が必要だろう。

これは、「コロナ後の世界」の展望とも関連する。読者諸賢は、コロナ問題収束後に、元の世界に戻ると思われるだろうか。それとも、以前とは大きく変わってしまうと思われるだろうか。もし未来に明るい希望があるのなら、絶望に陥らずに今を耐え忍びやすくなるだろう。

オンライン講義で大学生たちに聞いてみると、元の世界に戻るという意見もあるが、インターネット化・デジタル化・オンライン化が進んで生活や働き方のスタイルが変わるという意見が多い。後者には私も同感だ。でも、実はもっと大きな変化がありうるのではないだろうか。技術的進歩による社会的変化が加速するとともに、価値観・世界観に関する文明的な変化も起こりうるかもしれない。

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