利害を超えて現代と向き合う

利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(74) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

感染放任主義と自ら律して身を守る必要性

暖かい季節になってきた。ゴールデンウイークの歓楽気分を経て、「コロナは終わった」というように、あたかも問題が収束したような風潮が漂っている。感染症などの専門家たちが警告しているように、政治的思惑で5類になったからといって、コロナ感染そのものがなくなったわけではなく、浮かれるのは禁物だ。検査や治療も自費で賄う必要性が増大し、感染者や濃厚接触者の外出禁止も大幅に緩和されたから、コロナ感染者がいわば野放しになったようなものだ。このため感染リスクは増大し、日々の感染状況の公表もなくなってしまったのだから、人々が気づかないうちに蔓延(まんえん)してしまう危険がある。事実上は、統計隠蔽(いんぺい)と同じような効果があるわけだ。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(73) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

メディアの生み出す「世論」(公共的意見)の危険性

今はコロナ禍に加えて、ロシアのウクライナ侵攻による戦争が続いており、日本でも軍拡や北朝鮮のミサイルへの警報問題が起きている。世界的な戦争へと戦火が拡大していく危険性も決して軽視することはできない。このような文明的な危機の重畳(ちょうじょう)において、第二次世界大戦からの洞察を振り返ってほしい――そのような願いをもって、私はウォルター・リップマンの『公共哲学』(1955年)という古典を再訳して、刊行した(『リップマン 公共哲学』2023年、勁草書房)。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(72) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

「ポジティブ」な感情と政治

コロナを感染法上の5類にすると政権が決め、第8波が収まったので、あたかも感染症問題は収束したように社会は動き始めている。この大きな狙いは、4月の統一地方選挙を前にして、感染症問題を乗り越えたという明るい雰囲気をつくり、支持率が低迷した政権を浮揚させようということかもしれない。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(71) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

個人の努力の限界を超えたコロナ感染

コロナ第8波は猛威を振るい、日本はまさに世界でもっとも感染状況の悪い国の一つとなってしまった。個人的にも、私自身も含め身近な人々が次々と感染してしまい、仕事でもあちこちでその経験を聞くに至った。この連載でも、また授業や公共的な場でも、私は感染への警戒と自粛を呼びかけ、近時は政治的・社会的に緊張感が緩んでいるので、自制を続けるように注意を喚起してきた。それだけに自分でも細心の注意を払ってきたのだが、感染拡大の勢いが周囲でもあまりにも激しく、回避できなかった。ここまでくると、個人の努力の限界を超えていると言わざるを得ない。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(70) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

寿げない新年

今年ほど、「あけましておめでとうございます」と言って新春を寿(ことほ)ぎたいと思ったことはない。なぜなら、当然に思っていたその祝辞を素直に言うことができないからだ。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(69) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

政治的混乱

安倍晋三元首相の国葬が終わってからも、政治の混乱が続いている。政権の支持は続落し、相次いで三人の閣僚が辞任した。一人目の経済再生担当大臣はカルト的宗教との密接な関係が露呈した。二人目の法務大臣は、死刑という人の生死の与奪の権を握っているにもかかわらず、生命の重みに対する識見のなさが指弾された。三人目の総務大臣は、政治資金を所轄する責任者であるにもかかわらず、自らの政治資金問題が次々と露呈した。これらに見られるのは、政治的汚濁そのものだ。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(68) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

統一的管理システムと全体主義

安倍晋三氏の国葬が終わった。各種世論調査では評価しない人の方が多く、岸田内閣支持率はさらに下落を続けている。やはり、安倍氏関連の人々の「盛者必衰(じょうしゃひっすい)」が始まっているようだ。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(67) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

盛者の「国葬」

「祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹(さらそうじゅ)の花の色、盛者必衰(じょうしゃひっすい)の理(ことわり)をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。猛(たけ)き者も遂(つい)にはほろびぬ、偏(ひとえ)に風の前の塵におなじ」(『平家物語』第一巻)

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(66) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

旧統一教会による政界汚染:元首相銃撃事件と内閣改造

前回(第65回)に書いたように、参議院選挙で与党が大勝した結果はすぐに表れてきた。新型コロナウイルスの感染状況が世界最多となり、各地で医療崩壊が起きつつある。にもかかわらず、政府は何もしない。無為無策そのものだ。

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利害を超えて現代と向き合う――宗教の役割(65) 文・小林正弥(千葉大学大学院教授)

歴史的な銃撃事件と選挙がもたらした大変動

7月8日に安倍晋三元首相が奈良市で銃撃されて死亡し、その2日後に参議院選挙が行われて、与党が大勝した。この双方の事件は、今後の日本に歴史的な変化を引き起こすかもしれない。

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